自らも生理の不調に悩んだ経験があり、女性特有の悩みの解消を社会的視点からも発信しているスプツニ子!さん。また、女性たちに積極的に生理の不調を解消してほしいと訴え続けている産婦人科医で、ジェンダーギャップ問題の第一人者でもある種部恭子さん。お二人に、働く女性の生理痛の悩みと、その解消のためにできることについて、徹底討論していただきました。仕事と生理トラブルの共存に悩んでいる人、一緒に考えませんか。

テクノロジーがあるのに生理の悩みを解決できていない日本

スプツニ子!さんは、生理の不調に悩んだ経験がありますか?

スプツニ子!さん
スプツニ子!さん
アーティスト・Cradle代表取締役社長
東京藝術大学デザイン科准教授。ロンドン大学インペリアル・カレッジ数学部を卒業後、英国王立芸術学院(RCA)で修士課程を修了。卒業制作として発表した『生理マシーン、タカシの場合』で大きな注目を集める。2013年マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教授としてデザイン・フィクション研究室を主宰。RCA在学中より、テクノロジーによって変化する社会を考察・議論するデザイン作品を制作。東京大学大学院特任准教授を経て、現職。一児の母。2022年4月新サービス『Cradle』を立ち上げる。『Cradle』公式サイト:https://cradle.care

スプツニ子!さん(以下、スプ!) 初潮のころから生理痛に悩んでいました。勉強にも支障があるくらいだったので、高校時代、母親に勧められて日本で産婦人科に行きましたが、男性の産婦人科医に「つらいだろうけれど頑張って」と言われただけでした。

 つらい生理痛を抱えながら18歳でイギリスの大学に行って、日本との違いに愕然としました。イギリスでは、担当医に「つらい」と言ったらポンと低用量ピルを半年分、無料で出してくれたのです。低用量ピルをのんでからは生理痛が改善されて、生活がガラッと変わりました。

種部さん(以下、種部) 日本で経口避妊薬として低用量ピルが承認されたのが1999年、月経困難症の治療薬としての承認は2008年ですから、スプツニ子!さんの高校時代はちょうど、ピルが日本に入るかどうかの時期。当時は産婦人科医の理解も進んでおらず、街の産婦人科でピル自体を処方するところが少なかった時代でした。

スプ! 低用量ピルの承認が1999年ということですが、これは国連加盟国の中で最後だったと聞きました。北朝鮮でも1994年に承認されていたそうです。日本は男性のための薬剤「バイアグラ」などは半年でスピード承認されるのに、女性のQOLにとって重要な低用量ピルの承認がここまで遅いことを知り、驚きました。

 私は数学やコンピューター・サイエンスなど理系科目を学んでいて、これまでテクノロジーは人類の難題をたくさん解決してきたのに、生理のような女性の多くが抱える重要な悩みをいまだにうまく解決できていないことに、大きな疑問を感じました。調べてみると、テクノロジーや科学研究の世界がこれまで男性中心だったために、生理を始めとした女性の健康課題の多くがほとんど研究されてきていなかったこともわかりました。こうした違和感が私の活動の原体験になっています。

種部恭子さん
種部恭子さん
産婦人科医・富山県議会議員
1964年富山県生まれ。女性クリニックWe! TOYAMA 代表。医学博士。1990年富山医科薬科大学医学部医学科卒業後、富山県済生会富山病院産婦人科医長ほかを経て、女性クリニックWe! TOYAMAを設立。2019年富山県議会議員初当選。内閣府男女共同参画会議、女性に対する暴力に関する専門調査会委員、日本産婦人科医会常務理事、富山県医師会常任理事。

種部 それが代表作『生理マシーン、タカシの場合。』の制作につながったのですね!

スプ! はい。作品を通して生理やPMS(月経前症候群)についての理解が深まったら、世の中の生理に関する議論がもっと広がるのでは、と考えて発表しました。発表した2010年には賛否両論ありましたが、ニューヨークMOMAや東京都現代美術館などの女性キュレーターが評価し展示してくださったおかげで話題になり、その後も多くの人にネットやYouTubeで拡散してもらえたことで、とても勇気を得ました。

スプツニ子!さんは、帰国後、生理痛のケアはどうしましたか?

スプ! 私の生理痛は低用量ピルで改善し、帰国後、33歳ころからは、黄体ホルモンが付加されたIUS(Intra Uterine System)を子宮内に装着する方法に変更し、その後もずっと快適です。妊活のときはいったん中止し、自然妊娠。出産後、再びIUSを挿入して、今に至ります。

種部 IUSは子宮内に挿入するT字型をした小さな器具で、黄体ホルモンが徐々に放出される仕組みです。日本では2007年に避妊器具として承認され、2014年からは、過多月経や月経困難症の治療には保険が適用されています。一度挿入すれば約5年間治療効果が持続するのが特徴です。

 月経困難症の治療法には、LEPと呼ばれる低用量ピルやIUSなどのほか、鎮痛剤、漢方薬などいくつも選択肢があります。御自身が生活に支障があると感じたなら、症状の程度は気にせず、婦人科を気軽に受診してほしいです。

 残念ながら、低用量ピルなどの女性ホルモンを使った治療法は、日本ではまだまだ浸透していません。日本の女性たちは、生理があることが健康と教えられていて、毎月排卵があることが大切だと思っています。「生理痛でピルをのんでもいいの?」「避妊目的でない人がピルをのむのは、どうなの?」と思っている人が多い。