いろいろと知りたい海外の時事問題。英字紙ウェブサイトで手軽に読めるようになったけれど、なかなか読む時間がない…。そんなあなたに、知っておきたい時事問題を硬軟合わせ、主要英字紙ウェブサイトから月1回、紹介します。今回は、11月1日に欧州中央銀行(ECB)総裁に女性として初めて就任したクリスティーヌ・ラガルド氏の話題などをお届けします。

 IMF(国際通貨基金)専務理事だったラガルド氏が2019年11月1日、ECB総裁に就任しました。初めての女性総裁誕生に際し、米CBSが『60 Minutes』という番組でラガルド氏にインタビューを行いました。同氏は率直に、世界経済後退の危険性やナショナリズム台頭の脅威について意見を述べています。

クリスティーヌ・ラガルド氏。ECB総裁に就任後、フェイスブックに「私のチームとこれから8年間、ユーロを使う3億4000万人の欧州の人々のために働くことを楽しみにしています」と投稿(写真は2019年6月、G20財務相・中央銀行総裁会議のため来日時に撮影)
クリスティーヌ・ラガルド氏。ECB総裁に就任後、自身のフェイスブックに「私のチームとこれから8年間、ユーロを使う3億4000万人の欧州の人々のために働くことを楽しみにしています」と投稿(写真は2019年6月、G20財務相・中央銀行総裁会議のため来日時に撮影)

 米中貿易協議の部分合意が今月実現するもようと報道されていますが、ラガルド氏は米中貿易摩擦がもたらす影響について「(世界経済が生む)価値の後退をもたらす」として警鐘を鳴らします。そうならないように「すべての政策担当者へ、落ち着いて話し合い、すべてを議題の俎上(そじょう)に載せて、少しずつ解決することを強く求めます」と話しています。

 「欧州のナショナリズムは常に戦争へ導く恐ろしい展開と結びついています」とラガルド氏。先進国の一部の人たちが「ほかの国がどうなろうと関係ない」と思ったとしても、国同士のつながりがある以上、「隣人」は世界中にいて、彼らが困窮していたり、戦っていたりすれば、必ず影響は先進国に及ぶと説きます。「隣人」は単に町内を指さないのです。

 ラガルド氏は、IMF時代に、女性のエンパワーメントを目的とした融資をアルゼンチンやヨルダンといった国々で実現しました。女性の労働市場への参加促進や、男女不平等を軽減するための行動を起こしてきたことで知られています(参考記事「ECB総裁へラガルド氏 日本の男性経営者へ伝えたい事」)。自分以外に一人も女性がいない会議には参加しないとも表明しています。

ラガルド氏は2019年6月29日、「女性のエンパワーメントに関する首脳特別イベント」に参加した
「女性のエンパワーメントに関する首脳特別イベント」に参加したラガルド氏(左から6番目、ジャケット着用の女性)(2019年6月29日)

 ラガルド氏はECBでどのようなかじを取るのでしょうか。米Bloombergによると「前任者たちとは違うスキルセットを持ち込む」。なぜならラガルド氏は弁護士出身で、エコノミストでも、銀行での経験もないからです。これはECB総裁として初めてだといいます(前任のマリオ・ドラギ氏は米MITで経済学の博士号を取得し、イタリア銀行総裁を務めた経験を持ちます)。それ故、ラガルド氏は多くの専門家の意見を聞き、自らの外交手腕を生かした課題解決法を取るのではないかと推測しています。

 さっそうとしたファッションでも知られるラガルド氏を伝えるこんな話でBloombergは記事を締めくくっています。空港で出迎えた男性担当者を眺めて、ラガルド氏は一言。「日曜だからジーンズはいいけれど、ひげをそらないのは受け付けません」

・Christine Lagarde on the global economy: We are all in this together (CBS News, October 20, 2019)
・Christine Lagarde, First Woman to Head the ECB, Faces Peril on All Sides (Bloomberg, October 28, 2019)

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