第1子が誕生した小泉進次郎環境大臣。誕生後の3カ月間に2週間分の育休を取ると表明したことで、注目を集めています。2020年、男性による育児休業取得は広まっていくのでしょうか。大臣が取得する意義や今後の影響、現状6.16%にとどまる取得率を押し上げるための提言などを、各界の識者の方に聞いていきます。

まずは、男性育休に関するイベントや働き方改革のシンポジウムで小泉大臣と意見を交わし、育休取得を応援する署名活動にも関わった、ワーク・ライフバランス代表の小室淑恵さんに聞きました。

ネット上に出てこない「期待」の声は大きかった

 小泉進次郎環境大臣の育休取得は「英断」と言えるでしょう。取得期間は産後3カ月の間に2週間とのことですが、これだけでも相当な調整をして、ようやく発表できたという状況だと思います。

 小泉さんは昨年8月の結婚発表から「育休を取るのか、取らないのか」という点において注目され、さまざまな方面から賛否両論が巻き起こりました。無事に産まれるかどうかの不安もある中で、その先の育休のことを聞かれ続けるという、非常にプレッシャーのかかる、難しい立場に置かれていたと思います。

 インターネット上にはネガティブな意見が目立ちました。責任ある地位の人が休むのはどうなのか。金銭的余裕があるのだから他の人に任せればいい。大臣自身が休む必要はないのでは、など。こうした声は目立つので、あたかもこれが世論であるかのような印象を受けてしまいます。本人も最初はそう感じていたかもしれません。しかし、ネットにわざわざ書き込まない一般的な人の声を聞くと、圧倒的に「期待」のほうが大きかったんです。

 特に職場でも育休を言い出せずに困っている育児男性たちは、SNSでは誰に見られて何を言われるか分からないため自分の意見を披露することはありませんでした。しかし個別に話すと「とにかく期待している。今回、やっぱり小泉さんも取れなかったら、そのダメージは本当に大きい」と口々に話して、固唾(かたず)をのんで見守っている様子でした。

 その見えない期待を「見える化」して、本人に届けないともったいない。小泉さんの育休を応援したいと言っている地元の方々の署名活動を応援し、最後に主催者の代理で小泉さんご本人にお届けしました。大臣にとって育休取得は本人だけで決められるものではなく、支えてくれているブレーンや地元の支援者の方(多くは年配の男性たち)の意見も大切な要素となります。その方たちに向けて「否」だけでなく「賛」の人たちも多いということを伝え、判断材料としてフェアに見ていただきたかった。最終的に本人に手渡しし、期待の声を形として届けられたのは大きかったと思います(署名は20年1月16日時点で1447件)。

 実は、小泉さん自身はご結婚の前から働き方改革についてよく勉強されていました。そこで、19年3月18日に当社が主催した経営者向けセミナーで基調講演をしていただきました。パネルディスカッションでも、産後うつの発症率の高さや、予防には男性育休が大きな役割を果たすこと、少子化という課題解決に働き方改革と男性育休が密接に関わっていることなどについて、議論していました。ですから当日は、参加した経営者140人と共に「男性育休100%宣言」のシールを掲げ、色紙に行動宣言を書いて、「僕も、もしそういう場面になったら育休を取ろうと思います」と話していたのです。

19年3月に「男性育休100%」をテーマにしたセミナーに参加した小泉進次郎氏。当時は結婚発表前だったが、「働き方改革 まず官より始める」と色紙に書いて決意表明した。小泉氏の左は小室さん
19年3月に「男性育休100%」をテーマにしたセミナーに参加した小泉進次郎氏。当時は結婚発表前だったが、「働き方改革 まず官より始める」と色紙に書いて決意表明した。小泉氏の左は小室さん

 ご本人もブログに書いていましたが、産後のホルモンバランスの乱れによって産後うつになる女性が10%います。産後の妻の死因の1位は自殺なのです。産後うつのリスクが特に高まるのが、産後2週間から1カ月。この間に妻が7時間の睡眠を取れる日を作れるかどうかが、産後のホルモンバランスの回復において重要なのです。しかし夫が朝早く出て行くライフスタイルでは、妻は夫に夜間授乳を替わってもらうことが難しい。

 小泉さんの育休取得期間は「誕生から3カ月の間に2週間」とのこと。赤ちゃんが夜まとまって寝るようになる産後3カ月までの期間、翌日の仕事を調整できる日を通算2週間分作ることで、夜間授乳の協力もできるでしょう。妻の立場から見ると、まず最初に一番欲しいサポートの形だと思います。もちろん最初だけでなく継続も大事ですが、この時期に育児レベルが夫婦で同じ領域に達することができる「修行」を、共にできるかどうかが重要なのです。