悩みを持つ人たちにそっと寄り添うよう言葉をつむいだ『言葉の花束』を上梓した、俳優のサヘル・ローズさん。前編では、養母・フローラさんとの出会いと、家族の形について聞きました。後編では、私たちが抱えがちなさまざまな悩みについて、答えてくれました。

前編 サヘル・ローズ 戦禍で孤児に 養母への強い思い
後編 サヘル・ローズ 苦しさをさらけ出し、誰かを支えたい ←今回はここ

サヘル・ローズさん
サヘル・ローズさん
1985年、イラン生まれ。俳優・タレント。幼少時代を孤児院で生活し、7歳のときにフローラ・ジャスミンの養女として引き取られる。8歳で養母とともに来日。俳優として、映画やテレビドラマ、舞台にも出演。国際人権NGO「すべての子どもに家庭を」では、親善大使を務めた。公私にわたる福祉活動が評価され、2020年に米国で人権活動家賞を受賞。新著に『言葉の花束』(講談社)。

他人と比べて落ち込んでしまう

 8歳で母・フローラと来日しましたが、生活はとても貧しく、苦しい日々でした。幼い頃は「どうして私には自分のベッドや勉強机がないの?」「どうして誕生日なのに、ケーキが買えないの?」と、常に周囲と比べていました。

 その頃の経験があるから、私は今でも自分の心の中に何か足りない部分があるような気がしてしまいます。こうやって皆さんにメッセージを伝えたり、寄り添ったり、背中を押したりすることはできるけれど、自分に対してはいまだに自信が持てない部分や、人と比較して自分を否定してしまうときもあります。

「自分が母からもらった愛や勇気や希望を言葉にしてつむぎ、伝えていきたい」
「自分が母からもらった愛や勇気や希望を言葉にしてつむぎ、伝えていきたい」

 けれど人は、永遠に「比較」してしまう生き物なのですよね。以前は人と比べてしまうのはマイナスな感情だと思っていました。逆に今は、「人と比較しているな」と気づいたら、自分を俯瞰(ふかん)してみるようにしています。自分を客観的に見ることができると、「比較とは、ハングリー精神が生まれたり、高いところを目指そうと思ったりするきっかけの一つになるのだ」とプラスに考えるようになりました。

 たとえ「他人なんて気にしない」と口では言っている人も、どこかで比較してしまう感情はある。もしも、周りと比較してしまい落ち込んでいる人がいたら、「みんなその感情を持ち合わせているんだよ。あなただけじゃないよ」と寄り添いたいですね。

 自分と同じような経験を持つ子どもたちにも、「いろいろな生き方がある」し、「人生の選択肢はたくさんあるから、安心していい」ことを伝えていきたい。自分をもっと肯定してほしいんです。そのために、私が抱えてきた「苦しさの引き出し」をすべてさらけ出して、自分が母からもらった愛や勇気や希望を言葉にしてつむぎ、発信していきたいと思っています。