同じ職場環境にいても、一つの事象を「面白い!」と思う人もいれば、「不安だ」と感じる人もいる。同じ言葉を使っても捉え方が異なる。そんな感じ方や捉え方の特性を5つの因子で計量化して考えるのが、FFS理論。ソニーやLINEなどの企業が組織開発の一つとして取り入れ、延べ800社で導入されている。このFFS理論を、人気漫画『宇宙兄弟』の登場人物を題材に解説した1冊の本『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み』(日経BP)が話題だ。この本の著者で、数万人の個性を分析し、チームビルディングに生かしてきた古野俊幸さんに話を聞いた。

(上) 宇宙兄弟の登場キャラに学ぶ「自分の強み」の生かし方 ←今回はここ
(下) 宇宙兄弟がヒントに 人間関係の悩み解消法(下)

『宇宙兄弟』のキャラは脇役まで全部リアル

日経doors編集部(以下、――) 宇宙飛行士を目指す兄弟の成長を描いた人気漫画『宇宙兄弟』を題材に、FFS理論(Five Factors and Stress)について書こうと思ったいきさつを教えてください。

古野俊幸さん(以下、古野) きっかけは、『宇宙兄弟』の初代担当編集者であり、現在はクリエーターのエージェント会社・コルクの代表である佐渡島庸平さんです。彼が、組織のパフォーマンス向上のために、会社としてFFS理論を採用してくれていたのです。

古野 コミュニティーを活性化するために『宇宙兄弟』のファンクラブでもFFS診断をすることになり、改めて『宇宙兄弟』を読んで驚きました。作者の小山宙哉さんの描くキャラクターたちは、主人公の南波六太(ムッタ)や南波日々人(ヒビト/ムッタの弟)だけでなく、脇役までめちゃくちゃ面白い。ムッタの主任教官パイロットだったデニール・ヤングにしても、宇宙開発の技術者であるピコ・ノートンにしても、ほぼ全員がリアルにいるタイプです。

 表情やしぐさ、エピソードへの反応などノンバーバルな情報がしっかり描き込まれていて、その一つひとつがまさに、FFS理論で説明できる。そこで登場人物で、FFS理論を説明したら楽しいし、分かりやすいということになりました。

書籍を購入すると、『宇宙兄弟』の25人のキャラクターにあてはめて自分の強みを知る診断を受ける特典がついてくる。特設サイトでは、簡単な質問で無料8キャラ診断も受けられる(記事末参照)
書籍を購入すると、『宇宙兄弟』の25人のキャラクターにあてはめて自分の強みを知る診断を受ける特典がついてくる。特設サイトでは、簡単な質問で無料8キャラ診断も受けられる(記事末参照)

日本人に一番多いのは「保全性」

―― FFS理論は800社以上が人材の特性や組織の分析などに導入しているそうですが、改めてFFS理論について教えてください。

古野 FFS理論では(開発者:小林惠智博士)、環境や刺激に対する感じ方や捉え方の特性を5つの因子で表します。先天的因子である「保全性」「拡散性」に、生まれ育った環境に影響される後天的因子「凝縮性」「受容性」「弁別性」を加えた、5つの因子の組み合わせで個別的特性(以下、個性)を診断します。

FFS理論とは、Five Factors and Stressの頭文字を取ったもの。同じ環境でも心地よいと感じる人もいれば、不安に感じる人もいる。その感じ方や捉え方の特性を5つの因子として計量化。思考行動パターンの5つの因子は、保全性、拡散性、受容性、凝縮性、弁別性

 チームがうまく機能するかどうかは、多くの場合、人間関係に起因しますが、自分の個性を知り、相手の個性を知れば相手をストレス状態に追い込むことなく対話ができるのです。

―― 5つの因子には、それぞれどんな特性がありますか?

古野 例えば『宇宙兄弟』の主人公・ムッタの言動を、FFS理論をもとに観察・分析すると、慎重でなかなか一歩を踏み出せないところはあるが、一度決めたら粘り強く成し遂げようとする。まさに「保全性」が高く、日本人の平均値に近い個性です。

 一方、興味が湧いたら後先考えずにまっしぐら、無敵の自由人である弟のヒビトは「拡散性」が高い人の特徴そのもの。

主人公の南波六太(ムッタ)は「保全性」が高く、南波日々人(ヒビト)は「拡散性」が高い
主人公の南波六太(ムッタ)は「保全性」が高く、南波日々人(ヒビト)は「拡散性」が高い