「探索」が成功につながる

 連載第1回(成功は個人の能力よりネットワークに左右される)で、バラバシらの提唱する「パフォーマンスよりもネットワークが成功の可否を左右する」という研究を紹介しました。彼らの研究の中には、アーティストのキャリアがネットワークのどの位置から始まるかによってその後の成功が決まる、というものがあります。中心的なミュージアムに最初から展示されたアーティストのほうが、圧倒的に成功しやすかったのです。

 では、周縁からキャリアが始まってしまった人たちは、そのまま周縁にとどまるのでしょうか。そんなことはありません。調査してみると、少数ではあるものの、周縁のキャリアから始まりつつ、スタートしてから10年以内にスターダムにのし上がっていった例外的な人たちもいました。周縁にとどまった人たちと、成功した彼らとは何が違ったのでしょうか。

 周縁からスターになった人たちは、いつも同じギャラリーで展示されることを避け、さまざまな場所で展示をしていたそうです。つまり、彼らはひとつの場所にとどまらずに、積極的に「探索」していたと言えます。そうした探索を繰り返す中で、徐々に中心的なミュージアムへとつながっていくことができたのです。

 これはキャリアにとっても示唆的な話ではないかと思います。周縁から始まったとしても、探索を続けていれば中心部に行けるかもしれない、ということです。

「知の探化」と「知の探索」

 経営学の分野では、「両利きの経営」の重要性が指摘されています。「知の深化」と「知の探索」という2つの概念があり、知の深化は得意なことをより深めること、知の探索は新しい知識を探すこととされています。この2つをうまくバランスを取りながら進めている企業が成功している、ということが分かってきました。しかし、大部分の企業は知の深化に偏っているのが現実です。

 ではどのように知の探索をすればいいのでしょうか。その方法は、2つの手法でバランスを取るよう経営者が仕向けること、そして探索と深化で異なるルールや評価基準を用いることです。そうすることで、自分の強みを深めつつ、幅広い探索から新たな機会を得ることができます。

 私たちのキャリアの経営者は自分自身です。自分のキャリアを考えるときに両利きの経営の考え方は使えるのではないでしょうか。私たちは自分のキャリアを作っていくうえで、深化と探索の両方を意識的に行うべきなのです。

 自分の時間の使い方を振り返ってみて、深化と探索にどの程度自分たちのリソースを割り当てるのか、あらかじめ決めてみてはどうでしょうか。すでにあるつながりを維持するために80%の時間を使いつつ、残り20%の時間は新しいつながりを得ることに使うようにしてみる、というのもひとつの手です。もし食事会があるとしたら、5回に1回は必ず誰も知り合いがいないようなテーブルに行ってみる、というルールを自分に課してみてもいいかもしれません。

食事会では知り合い以外に声を掛けるルールを課してみる
食事会では知り合い以外に声を掛けるルールを課してみる