深化と探索では評価基準を変えよう

 私自身は、働く時間のうち15%は自分の時間にあてています。新しいことを学んだり、これから取り組むべきことを考えたりする時間として活用しているのです。また、1年に最低ひとつは新しい取り組みを始めることを自分自身に課しています。そうすることで、ひとつの領域にとどまらず、さまざまな分野に触れ合えるようになります。

 さらに探索と深化で評価基準を変えてみることも大事です。上記の食事会の例だと、きっと探索のための食事会は楽しくないことも多いでしょう。見知った人がいるほうが楽しいに決まっています。しかし、「楽しいか楽しくないか」は、普通の食事会のときの評価基準です。探索のときは別の評価基準が必要。なので、評価基準を何人と知り合えたか、といった基準にしてみるのはどうでしょう

 私たちは、キャリアでもつい深化のほうに偏ってしまいます。また、深化と探索の両方の活動をつい同じ基準で測りがちです。だからこそ、それを回避するための術を教えてくれている「両利きの経営」のモデルは、私たち自身のキャリアの経営にも生かせるのではないでしょうか。

挑戦のためにセーフティーネットが必要

 探索とは、言い換えれば挑戦です。そして、挑戦の多くは失敗に終わるものです。といっても、「そういうもの」と割り切ることはなかなか難しいでしょう。

 だから新しい挑戦をするためには、失敗したときの備えが必要です。実際、他国の政策を見ていても、セーフティーネットが厚めに敷かれると、起業する人が増えることが分かっています。最低限の生活を守るさまざまな社会保障は、人々の挑戦を支えるために行われている、ともいえるのです。

 その考え方をキャリアに転用してみると、ふと気づくことがあります。私たちもキャリアにおける挑戦をするときは、セーフティーネットがあると踏み切れる、ということです。

 例えば、起業で失敗しても元の会社に戻ってこられる、というような安心感があれば、挑戦してみようという気持ちにもなるのではないでしょうか。実際、私の周りの起業家も、起業が失敗しても古巣に戻れば何とかなるから大丈夫、と言っている人が多くいます。

 キャリア構築と言えば、積極的に攻めるための活動だと捉える向きが多いでしょう。しかし、その前に自分のキャリアを守れる保証があってこそ、より挑戦に踏み切れるのではないでしょうか。そして皆さんが築いてきたこれまでのキャリアは、きっとあなたの挑戦を守ってくれるセーフティーネットになってくれるはずです。逆に言えば、大きな挑戦をするのであれば、そうしたセーフティーネットを確保した後でも遅くはないのかもしれません。