2019年夏、長編小説『夏物語』を上梓した作家の川上未映子さん。08年の芥川賞受賞作『乳と卵』で描いた女性たちが再び登場し、生殖倫理という重いテーマに踏み込んだ。小説を通して産むこと、生きることについて一石を投じる川上未映子さんに、日経xwoman 総編集長の羽生祥子が独占インタビュー。結婚、出産、家族、仕事など女性の「生と性」を激論する。

(1)川上未映子 いつ産む? なんて考える前にする事はある
(2)川上未映子 男性との恋愛を経ないで子どもが欲しい女性
(3)川上未映子 もがきつつ自分への信頼を積み上げた20代 ←今回はここ
(4)川上未映子 死ぬ直前まで全部見て、書ききりたい

羽生編集長(以下、羽生) 前回の「男性との恋愛を経ないで子どもが欲しい女性」では20代、30代の「他人が羨ましく思えてしまう」「いつ結婚・出産すればいいのか」という悩みに本質的なアドバイスを頂きました。今回は、未映子さんのキャリアの道筋をお聞きしたい。20代から作家として挑戦し結果をつかみ取ってきたイメージがありますが、20代はどのような日々を過ごしていたんですか?

31歳まで全部ダメ、何もうまくいかなかった

川上未映子さん(以下、川上) 作家になって11年となり、今も仕事をなんとか続けられてきていますが、それ以前は全部ダメで何もうまくいかなかったんです。本当に31歳ぐらいまで何もうまくいかなかった。

「20代は何もうまくいかなかった」と話す川上未映子さん
「20代は何もうまくいかなかった」と話す川上未映子さん

 でも31歳の時に(芥川賞を受賞し)物書きとしての道が開けたのは、そこまで一切手を抜かなかったからかなと思います。結果が出ない中でも、これ以上はできないだろう、というところまで本当にいつもやっていました。奇麗事に聞こえると嫌なんですけど、本当にそれしかないのかなと思います。どんな仕事でもいいから、とにかく手を抜かない。全力でやりきるというのが重要だと思います。

羽生 私も20代ときは、自分の仕事と呼べるものを形作るために必死でもがいていました。就職氷河期ど真ん中の世代なので、大卒でいきなり無職になり……。心身を保つのが本当に大変でしたね。この国ではひとたび正社員になれないと、ボウリングのガーターに落ちてしまったみたいに二度と正規レーンに上がれないんだなと絶望しました。でも生きるために、フリーター、契約社員、なんちゃって起業、中途採用など、あらゆる仕事の仕方を経験して。それが、30代に入ってからメディアを創刊するエネルギーの核になりましたが。

川上 そのときは正社員になりたかった?

羽生 なりたかったですよ。なぜなら非正規社員というのは本当に不安定な立場だから。給料の未払いがあったり、悪い大人の詐欺にあったり。一方で、自分で営業をして頭を使えば、5万円のものが50万円で売れるとも知りました。20代は“ひとり戦後”のようで、今夜のパンをパン屋に譲ってもらいながら、家賃をやっと払えるという状態でしたね(苦笑)

川上 そんなとき結婚して誰かに頼ってしまおうという思いはよぎらなかった?