共働き夫婦の男女平等、それぞれの闘い方

羽生 実際に子どもを2人立て続けに産んでみると、私は実母も義母も3人のシッターも、もちろん夫もフル稼働状態で走り切るしかなかった。産み育てている真っ最中に『日経DUAL』も創刊したので、あの頃は悪夢と天国が毎日交互に来るような数年間で。川上家は、育児と仕事の両立はスムーズでしたか?

川上 最初はジェンダーロールの刷り込みがあったから、寝かしつけ、離乳食、夜泣き対応とか「なんとなく母親がするものだろう」みたいなことはぜんぶ背負い込んで、負担がすごかった。体も壊したし。でも「同じように働いているのにおかしいだろう」って、だんだん分かってくる。子どもが生まれてから7年間のうちの半分は夫婦でけんかと議論をしてきた感じ(笑)。

川上未映子さん「子どもが生まれてから7年間のうちの半分は夫婦で喧嘩と議論をしてきた感じ」
「子どもが生まれてから7年間のうちの半分は夫婦で喧嘩と議論をしてきた感じ(笑)」

羽生 でもそれでうまくいくようになったんだから、大成功!

川上 刷り込みがやっかいなんですよね。なんかおかしい、フェアじゃない、と思っても、多くの女の人は「私が我慢して、黙ってやるほうがストレスがない」って諦めますよね。それで十年くらい騙し騙しやったあと、恨みが溜まって離婚する友だちが本当に多いですよ(笑)。

羽生 私の場合、計6人ほど(家事を手伝うために)他人が台所を使っていましたけど、私のやり方と違っても荒らされても味がてんでバラバラでも、全く気にならなかった。あのときは快不快の基準を無意識にユルめていたんだろうな。未映子さんはどうだったの?

川上 やっぱり私の場合は、夫と社会的に立場が対等だし、経済的に互いが独立してる。そこがいちばん大きいんじゃないかな。他人と生活しながらも、きちんと自分の人生を生きるためには、フェアであることがいちばん大事だと思う。

家族であっても秒でジャッジしていきたい

羽生 その結果、家庭内は今どんな感じですか?

川上 何年もかけて、ようやく流れが定まった感じ。

羽生 なるほど。

川上 私が簡単なご飯を作って食べたら、相手がさっと洗ってピッカピカ。やっぱり家族といえども、互いを認め合う信頼関係がなければ成り立たないと思うんです。しんどいときに助けてくれたな、とか、支えてくれたな、とか、そういうのがないと。一緒にいるから何もしなくても思いが伝わるというのは絶対に認めたくない。

羽生 うわー、要求高いですね。家族にも「秒ごとにジャッジする」みたいな?

川上 子どもはまだ小さいから別だけど、家族であっても秒でジャッジしていきたい(笑)。共有した時間が何かの証明になるっていうのは甘えだと思うし、「家族だから」、何かが無条件に許されるわけじゃないですよね。息子にも「家族だからって最高だとは限らないよ。家族じゃなくても、ずっと仲のいい人たちはたくさんいるよ」と話しています。

羽生  確かに家族というのは不安定で、約束されたものなんて何もない。私の住んでいる地域にも離婚したママたちは多くいます。

川上 そう、家族や夫婦という関係がそもそももろいもの。そんな危うい男女の関係の中からでないと子どもを持てないのか、という疑問が今回の『夏物語』を書くことになったきっかけです。

羽生 子どもを作るのは確固たる夫婦の絆ではない、と。

――次回も「男女の恋愛」や「正しい妊娠」について、赤裸々に語り合います。


川上 未映子
作家
1976年、大阪府生れ。2007年、小説『わたくし率 イン 歯ー、または世界』『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』(共に講談社)で早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、2008年小説『乳と卵』(文藝春秋)で芥川賞を受賞。2010年映画『パンドラの匣』でキネマ旬報新人女優賞を受賞。小説『ヘヴン』(講談社)で芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞を受賞。2013年詩集『水瓶』(青土社)で高見順賞、『愛の夢とか』(講談社)で谷崎潤一郎賞、『あこがれ』(新潮社)で渡辺淳一文学賞を受賞。2019年7月に『夏物語』(文藝春秋)を上梓。

文/飯泉 梓(日経doors編集部) 写真/鈴木愛子