「結婚すればなんとかなる」は危険

羽生 「人生に上がりなし」、その通り! 仕事がら多くの方の意見を見聞きしますが、いっときの成功や見栄えで“上がれる”または“成仏できる”人なんていない。皆その後も100歳になるまで長々と生きなきゃいけない。

 ただ、20代や30代の女性からよく聞くのは「他人をうらやましいと思う気持ちが捨てられない」とか「この先自分がどうやって生きていくべきか分からない」という迷いの声なんですよね。

川上 「結婚すればなんとかなる」という気持ちで結婚すると本当に大変なことになると思う。それこそカオとカネの交換をすることになって、誰のための人生を歩んでいるのか分からなくなる。いつか限界がくると思います。

 やっぱり──構造的に女性が不利である問題が前提としてあるけれど、もし可能なら稼ぐ力を身に付けないと。経済力を身に付けなければ、誰かに依存しなければならなくなり、インディペンデントな存在ではいられなくなる。それって問題ですよ。どこかの会社に入って誰と結婚しても上がりってことは絶対にない。

 「他人がうらやましい」「何をすればいいか分からない」という人は、突飛に聞こえるかもしれないけれど、憧れの誰かや、理想の自分とか、そういうのがない世界を想像してみるといいんじゃないかな。そのときの自分って、どんな自分? 何をしているときに純粋なやりがいを感じて、何をしているときに時間を忘れるのかを改めて考えてみる。もちろんそれだけで生きていくことは難しいけれど、でも自分がどういうことに幸せや喜びを感じるのかを知ることは、自分にとってとても大切なことですよ。そういう小さな確認の積み重ねがいつしか自信につながって、自分自身を導く何かになるのかもしれない。

羽生 私たちも20代はもがいて悩んで、平坦ではない道を自分の足で歩いてきましたもんね。

――次回は2人の苦悩の20代、仕事のやりがいについて語り合います。

川上 未映子
作家
1976年、大阪府生れ。2007年、小説『わたくし率 イン 歯ー、または世界』『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』(共に講談社)で早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、2008年小説『乳と卵』(文藝春秋)で芥川賞を受賞。2010年映画『パンドラの匣』でキネマ旬報新人女優賞を受賞。小説『ヘヴン』(講談社)で芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞を受賞。2013年詩集『水瓶』(青土社)で高見順賞、『愛の夢とか』(講談社)で谷崎潤一郎賞、『あこがれ』(新潮社)で渡辺淳一文学賞を受賞。2019年7月に『夏物語』(文藝春秋)を上梓。

文/飯泉 梓(日経doors編集部) 写真/鈴木愛子