人の数だけ悩みもある。どんなに年を重ねても、悩みの種は尽きません。あなたの悩みに寄り添う連載、今回は30代女性の「これといった趣味がない」というお悩みです。作家の羽田圭介さんに回答していただきました。

【前編】羽田圭介 新しいことを始めなくても人生は素晴らしい←今ココ
【後編】羽田圭介 数々の初体験「始めたことに意味がある」

「趣味」って必要ですか

 これといった趣味がない。都内のメーカーで働く香織さん(仮名・32歳)は、友人や同僚と話すとき、趣味やハマっているものの話題になると、いつも気まずい気持ちになる。

 学生時代に付き合っていた彼はサッカーが好きで、よく一緒に試合を見に行った。そのときは周囲に「サッカー観戦が趣味」と話していたけれど、彼と別れたあとはサッカーを見なくなってしまった。社会人になって付き合った彼氏は、アウトドア好きの人だった。あちこちのフェスに行き、泊まりがけでキャンプもよく行った。けれど、別れてからはどちらも行っていない。

「アウトドア、彼と別れてからは一度も行っていません」と話す香織さん
「アウトドア、彼と別れてからは一度も行っていません」と話す香織さん

 履歴書やマッチングアプリなど、「趣味」を書く欄には当たり障りなく「映画鑑賞」と書いている。確かに映画は好きだ。けれど、無くてはならないとまではいかない。「たぶん、私は趣味がなくても生きていけると思います」

 職場で話題だった韓国ドラマも見た。流行している韓国アイドルグループの曲も一通り聴いた。かっこいいとは思う。でも、それだけ。「ファンクラブに入会した」「韓国語を習い始めた」と楽しそうに話す友人の話を聞いていると、ふと「何にも熱中できない自分は何かが欠落しているのだろうか」と思ってしまう。

 「自ら『これが好き!』と夢中になったものが、ほとんどなくて。そんな自分を変えたくて、新しく習い事を始めてみるけれど、すぐに飽きてしまって長続きしないんです。熱中できる趣味があったり、ハマったりできる人の人生は楽しそうに見えて、純粋にうらやましい。どうしたら、何かに夢中になれるのかな」

作家・羽田圭介さんに聞いてみた

 そこで今回は、小説家の羽田圭介さんに話を聞きました。大人になると、「初めて」に挑戦するのを遠ざけるようになるもの。羽田さんが、「体力が要るようなことや、脳を用いて何かを習得するには、30代の今が最後のスタート年齢になるかもしれない」と初体験に挑戦したのが、エッセー『三十代の初体験』だ。さまざまな体験を通して、あるがままの姿を見せている羽田さん。どんな回答をしてくれるのでしょうか。

羽田圭介さん
1985年、東京都生まれ。高校在学中の17歳のときに「黒冷水」で第40回文藝賞を受賞し、小説家デビュー。2015年、「スクラップ・アンド・ビルド」で第153回芥川賞を受賞。近著に『Phantom』(文藝春秋)、『滅私』(新潮社)、『三十代の初体験』(主婦と生活社)などがある