ロールモデルは「いいとこ取り」でいい

Waris共同代表の田中美和さん
Waris共同代表の田中美和さん

 伊藤さんのように『結婚すると、キャリアを諦めないといけないの?』という質問は、20代後半の女性にとても多いですね。

 今は、「ダイバーシティ」「働き方改革」と働く女性を取り巻く環境は進んできているとはいえ、女性たちが直面するモヤモヤした感情や、不安や悩みは、どの時代もあまり変わってないのかなと思います。

 私自身は、「キャリアも結婚も出産も諦めなくていい」と思っていました。それは、日経WOMANでたくさんの女性たちに取材をしていたから。結婚しても出産しても活躍しているビジネスウーマンの方たちがいて、さまざまな人に会い、さまざまな働き方を知ることができました。

 「ロールモデル」を掲げること自体は、とてもいいと思います。お手本になりますし、刺激も受ける。「あんなふうになりたいな」と思うことは、自分の成長にもつながりますしね。

 けれどそのロールモデルは、社内で見つけたり、身近なところで探したりしなくてもいい。SNSやnote、ブログなど、キャリアカウンセラーとして発信している人はたくさんいます。今はコロナ禍で、オンライン上で実施されるウェビナーも盛んですよね。関心のある領域のウェビナーに参加し、登壇者に、苦労したことや不安の乗り越え方を質問してみると、ノウハウやヒントをもらえるはず。自分の身近なところだけではなくて、範囲を広げて探してみてもいいのかなと思います。

 そして、必ずしも一人に絞らなくてもいいし、複数でいいと思います。ロールモデルは「いいとこ取り」でいいんです。たった一人の完璧なロールモデルを探すのは、とても難しいこと。「生き方はAさんのここがいいな」「部下との接し方はBさんがいいな」と、何人かのいいとこ取りをおすすめします。

今見えていることだけにフォーカスしよう

 キャリアや結婚や出産は、手に入れる量も順番も人それぞれですし、ゼロか100かで考える必要はないんですよね。

 大事なのは、「今見えていることにフォーカスする」こと。今は、資格取得のために勉強されているようなので、そのまま「今できることに取り組む」といいと思います。

 逆に、結婚・出産は「まだ、今見えていないこと」。結婚・出産は、お相手があってのものですし、伊藤さん自身も「今、お付き合いしている人とは、まだ結婚を考えられないな」と思うのであれば、それは「今決められないこと」ですよね。

 今決められないことは、今決める必要はないんです。今見えてないこと、今決められないことはちょっと横に置いておいてもいいと思いますよ。

自分のキャリアは自分で切り開いて

 親御さんは心配しているだけだと思うので、時間が解決してくれるかもしれませんね。本質的には応援したいと思っているはず。

 今は人生100年時代、私たちは少なくとも70歳まで働く世代です。そうなると、一つの会社で正社員として働き続けることは考えにくいですよね。今勤めている会社が安定した大企業であっても、30年後、40年後も同じようにあり続ける保証はどこにもない。むしろ、キャリアを会社に預けてしまうほうが、危険じゃないかなと思います。

 「自分のキャリアは自分で切り開く」気持ちを持って、前進していってほしいなと思います。


 後編では、田中さんがWarisを立ち上げた思いや、これから何かを始めようとしている人への力強いアドバイスを聞いた。引き続き【後編】Waris田中美和 未来も結婚も「発信」が大事もお読みください。

取材・文/尾崎悠子(日経doors編集部)イメージ写真/PIXTA