前編では、「友達との縁を切るのは悪いこと?」というお悩みに対して、僧侶であり、メイクアップアーティストの西村宏堂さんにアドバイスを聞きました。後編では、西村さんがこれまで感じてきた「価値観の押し付け」と、「自分らしく、自分のために生きていく」ヒントをお届けします。

【前編】「あんなに仲が良かったのに」29歳、友達と縁を切った日
【後編】価値観の強制はNO 西村宏堂「私は私のために生きていく」 ←今ここ

西村宏堂さん
1989 年、東京生まれ。浄土宗僧侶。ニューヨークのパーソンズ美術大学卒業後、米国を拠点にメイクアップアーティストとして活動。ミス・ユニバース世界大会や、ミスUSAなどで各国の代表者のメイクを行い、高い評価を得る。その傍ら、LGBTQの一員である自らの体験を踏まえ、LGBTQ 啓発のためのメイクアップセミナーも行っている。著書は『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』(サンマーク出版)。

価値観の押し付けはNO

 私は幼い頃から、「心にうそをついてまで、無理やり人に合わせる」のがいやでした。幼稚園の頃、全員がドッジボールをしている中、やりたくなかった私は一人で絵を描いていたことがあります。先生に「みんなと一緒に遊ばなくてもいいの?」と聞かれても、「うん、いいの」と答えていた(笑)。無理にやりたくないことをやっていやな気持ちになりたくないし、それならば「一人で自分の好きなことをしていたほうがいい」、そう思っていましたね。

 その頃は、大好きなディズニー・プリンセスのようになりたくて、母のスカートをはいてシンデレラごっこをしたり、アリエルになりきってみたり。けれどだんだんと「女の子っぽい」と言われるようになり、次第に自分が出せなくなっていきました。私の存在を社会が受け入れてくれず、祝福してくれていないと感じていました。

 大人になるにつれ、見た目の性別どおり振る舞うことや、年上の人を敬いなさいというような「価値観を押し付けられる」場面が増えてくるようになりました。それを受け入れられなかったし、同調するのはもっといや。「ただ先に生まれているだけ」で敬わなければならないのは無意味ですし、道理にかなっていません。「敬う」気持ちは強制されるものではなくて、自然と湧き出てくるものです。

 私が敬うメイクの師匠と出会ったのは、米国のパーソンズ美術大学の3年生だったとき。彼女はミス・ユニバースで森理世さんが優勝したときにメイクの担当をされていた人でした。

 メールで「ぜひ学ばせてほしい」とお願いをし、その後お会いする機会があったときにメイクに対する熱い思いを伝えました。すると、「私と同じ情熱を持っているあなたに、ぜひアシスタントをお願いしたい」と言われ、アシスタントになることができたんです。私がメイクアップアーティストの道へ、一歩踏み出した瞬間でした。

 価値観や考えは、目で見えないもの。言葉できちんと伝えたり発信したりすることは、とても大事だと思います。