偶然起きる出来事には意味がある

 自分自身に対しての違和感といった「実存的」な生きづらさを感じ始めた途端、不思議なことにそれまで考えたこともなかった「人間関係」の悩みも出てくるようになりました。次から次へと同時に困難がやってきたんです。

 心理学者のユングは「シンクロニシティー」という概念を提示していて、これは因果関係のない出来事が偶然同時に起きることをいいます。そして、その偶然には意味があるのだと。

 実は10代の頃は、周りを少し馬鹿にしていたような性格だったんです。人の話も聞かない。嫌な人間でした(笑)。そんな性格でしたから、それまでは自意識や人間関係について思い悩むことなんてなかったけれど、「いよいよ、未発達だった人間関係や自意識などの部分について考え、成熟させないといけない時が来たんだな」と感じたのを、今でもはっきりと覚えています。

2人とも抱えていた「生きづらさ」、それぞれどう乗り越えていったのでしょうか。
2人とも抱えていた「生きづらさ」、それぞれどう乗り越えていったのでしょうか。

―― 釈先生は、その後どう乗り越えられましたか。

 「嵐が過ぎ去るのを待つ」。頭に何かを被って、ひたすらじっとしているような感じでしたね。けれど「実存的」な生きづらさに対して悩んだ経験は、その後の人生における転機にもなりました。

 のちに40代になって「巻き込まれキャンペーン」と自身で銘打った行動を起こすのですが、これは自意識や、人間関係の問題にぶつかったこととつながっています。「巻き込まれキャンペーン」の内容は、「何が来ても、ほとんど断らない」。どんな誘いも断らず、自身の意思を出さずに流れに身を任せているイメージです。

 それまで人の話も聞かず、興味のない誘いはバッサリと断っていた私にとって試練みたいなキャンペーンを課した。これが結果的に生きづらさを和らげる転機となり、自分も悩み抜いてきたからこそ、人の痛みに寄り添えるようになっていきました。あの経験があったから、と今では思いますね。