自分の生きづらさに診断が付くことで改善

―― 貂々さんは、いつ乗り越えられましたか。

貂々 生きづらさが徐々に改善されていったのは、48歳になった頃。精神科医の水島広子さんと出会い、「非定型発達」だと診断されてからです。

 「非定型発達」とは、先天的に脳の発達の仕方に偏りがあり、さまざまな生きづらさにつながる特徴がある状態を指します。主に「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)タイプ」と、「ADHD(注意欠如・多動症)タイプ」があり、私は「ASDタイプ」と診断されました。

 「自分が納得しないと前に進めない」特性の私は、この診断が付いたことで一歩前に進めたのだと思います。自分がどういう人間なのか。何がしたくて、何ができなくて、何に困っているのか……。何一つ分からなかった理由が、脳の「発達の仕方の偏り」によるものだと知り、モヤモヤが晴れていったんです。

どんなことも「自分で考える」

―― これからの時代を生きていくために、私たちが日ごろから心がけておくべきことはありますか。

 私が教えている大学で、日々学生たちと接していて思うのですが、どんな事象についても「自分なりに咀嚼(そしゃく)する」のは大事ですね。

 たとえば、成績も良くて、何でも知っていて、スラスラと説明もできるけれど、思考の奥行きや幅に乏しい学生がいる。一方で、しゃべるのはうまくないし、発言もたいそうなことを言っているわけではないけれど、魅力のある学生もいる。

 何が大きく違うのかというと、前者は「情報が自分の意見」になっているんですね。後者は言葉の端々から「一度、自分で考えた意見」であることが伝わってきた。今はインターネットやSNSでさまざまな情報が手軽に入る時代ですから、いつの間にか誰かが言っていた発言を、自分の意見であるようになってしまうんです。

 政治、経済、法律、ファッション、音楽、何でもそう。自分なりに、見て、聞いて、触れて、体験してみる。そして、自分の頭で考える。自分の歯で咀嚼していかないと、栄養にもならないし、魅力にもなっていかないんですよね。

 すぐに効果は出なくても、自分の頭で考える癖をつけるようにしていくと、ふとつながり出すときが来るんですよ。それがあなたの強みになっていくのだと思います。

「生きづらさ」を改善する手立てがたくさん詰まった『生きベタさん』(講談社)
「生きづらさ」を改善する手立てがたくさん詰まった『生きベタさん』(講談社)

 後編では、結婚や出産といったプライベートや、転職や昇進など仕事での変化でつい周りと比べてしまうといった悩みについて、アドバイスをもらいました。引き続き後編「漫画家細川貂々×如来寺釈徹宗 他人と比べなくなる方法」もお楽しみください。

取材・文/尾崎悠子(日経xwoman doors) イラスト/細川貂々

後編「漫画家細川貂々×如来寺釈徹宗 他人と比較しなくなる方法」では、次のストーリーを展開

■周りと比べてしまうときは、一度点検してみる
■ポジティブな回路をあえてつくる
■人生を生きやすくするためには