人の数だけ悩みもある。どんなに年を重ねても、悩みの種は尽きません。あなたの悩みに寄り添う連載、今回は20代女性の「ロールモデルがいない」というお悩みです。俳優の黒木華さんに回答していただきました。

【前編】黒木華 ロールモデルは自分でいい 楽に生きるのが一番 ←今ココ
【後編】黒木華 価値観は人それぞれ、意見を言う大切さを実感

黒木華さんに「ロールモデルがいない」「明確なビジョンがない」悩みを聞きました
黒木華さんに「ロールモデルがいない」「明確なビジョンがない」悩みを聞きました

ロールモデルって、いないとダメ?

 「ロールモデルって、いないとダメなのでしょうか」。そう話すのは、都内のPR会社で働くリサさん(25歳、仮名)。

 今の仕事は楽しい。大学を卒業してこの業界を選んだのは、若くても幅広い仕事ができると思ったから。実際、多岐にわたる案件でさまざまな人と関わり、学ぶことの多い毎日だ。クライアントが望むことに対し臨機応変に対応するのは、自分にとても合っている、とリサさんは思う。

 昨年はコロナ禍での急なリモート対応に奔走したものの、同期やチームのメンバーにも恵まれているおかげで乗り越えてきた。3年目になる一人暮らしも板に付いてきて、生活に大きな不満はない。だが、月に1回ほどある部長との「振り返りの面談」だけが、リサさんをうんざりさせていた。

 同僚の中には、業務で関わる案件は美容系やファッションなど、「特定のジャンルを極めたい」と明確な目標を持つ人もいた。けれど、リサさんは「できることの範囲を狭めたくない。さまざまな案件に携わりたい」と思い、面談時には常々そう答えていた。

 けれど、それが上司の目には「ふわっとしている」と映ったのだろうか。評価しづらいと思ったのだろうか。「あなたには将来の明確なビジョンはないの?」と、毎度面談で質問されてしまうのだ。

人生は何が起こるか分からないのに

 全体的に若い世代が多い会社なので、30代半ばで部長、20代半ばでもチームリーダーになる人も多くいる。30代半ばの部長には、「35歳でマイホームを持つ」という、人生の明確な目標があったそうだ。

 「どのような将来のライフプランを描いているのか」を尋ねられるたび、リサさんは「特に決めていないです」と答えてしまう。そして心の中で、ずっと唱えている。「人生は何が起こるか分からないのに。ライフプランを立てて、それに沿って生きることは楽しいのかな」と。

 ライフプランは決めていないと答えるリサさんに、部長はこう返してきた。「会社の中に、ロールモデルとしている人はいるの? 人生の目標が決められないなら、目標となる人を決めたらいいよ」。

 それに対しても、リサさんは毎度「いないです」と答えてきた。「見つからない」のではない。あえて「探さなかった」のだ。

 「自分ではない誰かに憧れを持たせる」のは、何だか違うのではと思う。たとえロールモデルに近づけたとしても、その人の後をたどるのはつまらない。それならば、自分がロールモデルになればいいんじゃないか――。その思いがあるから、なかなか理解してくれない上司に対し、困ってしまうのだった。

黒木華さんに聞いてみた

 今回は俳優の黒木華さんに、仕事や人生の「ロールモデル」について、聞きました。

黒木華(くろき はる)さん
NODA・MAP番外公演「表に出ろいっ!」(2010年)のヒロインオーディションに合格し、本格的にデビュー。「東京オアシス」(2011年)で映画デビュー。2014年の第64回ベルリン国際映画祭では最優秀女優賞を受賞した。ドラマ『僕の姉ちゃん』では姉の白井ちはるを演じる。今後の待機作に、映画「ノイズ」(2022年1月28日(金)公開)、舞台「もはやしずか」(2022年4月上演)がある