ただ認めてくれる存在でいてほしかった

 思えば、母はずっと世間体を気にし、よく怒る人だった。

 幼稚園に通っていたころ、西野さんは内向的な性格で、ほかの園児たちが無邪気にはしゃぐ場面でもあまり感情を表に出すことができなかった。その姿を先生たちは「大人っぽいね」と評価してくれたものの、家に帰ってから母は「それは褒め言葉ではないからね、子どもらしくないってことだからね」と、ひどい怒りようだった。

 「少しでも失敗したり、母の希望と違う選択をしたりすると、すごく怒られました。学生時代はいろんなことに挑戦してみたかったけれど、うまくいく保証のあるものしか手を出せない。それは社会人になった今もそうです。ミスをしたらどうしよう、相手を怒らせてしまってないかと、過剰なほど気になってしまって

 何が母の気分を逆なでするのか分からない。感情的に、ヒステリックに怒る母。でも母子家庭だから、頼る人は他にいない。けれど最近、そんな母に似てきていると気づいた。

 「付き合っている彼とけんかしたとき、『君の、感情的になるところが嫌だ』と言われたんです。ずっとお母さんみたいにはなりたくないと思っていたのに、怒ったときの素の自分も同じように『感情的』だった。そんな自分がどうしようもなく嫌になりました」

 その彼とは、今、結婚を考えている。母に報告しようと思ったときは折しもコロナ禍で、実家に帰ることははばかられた。しかしそれ以前に、母に「結婚したい人がいる」と報告することをためらってしまう理由がある。

 「5年ほど前、お付き合いしていた人との結婚を猛反対されたことがあるんです。理由は、『父と同じ業種』だったから。絶対に認めない、もしも結婚するなら縁を切るとまで言われてしまい、その後彼とは破局してしまいました。また同じように反対されそうで、怖くて報告に行けない自分がいます。

 結婚を認めてもらえないことだけではなく、将来自分の子どもを産み育てることにも自信が持てないんです。私も母と同じように、子どもに怒ってしまいそうで」

 離婚後、女手一つでここまで育ててくれた母には、すごく感謝をしている。全く口をきかない仲でもなく、母の機嫌が良いときは、楽しく会話もできる。けれどその会話も、最後には「私の言うことを聞かずに会社員を続けているなんて」と詰め寄られてしまう。

 「お母さんには、何があっても応援し、ただ認めてくれる存在でいてほしいのに……」。この先どうしたらいいか、西野さんには妙案がまだ浮かばない。

 同じように、母親との関係に悩んでいた女性がいる。タレントの青木さやかさんだ。