自分の機嫌くらい、自分で取ってこい

 松田さんが編集者として開花したのは、27歳で上京し、コミックエッセーというジャンルに出合ってから。

 それまではリクルート九州支社で雑誌『じゃらん』で宿や行楽地の取材をする日々だった。さらに遡って最初に就職した1社目では、九州・福岡のタウン誌で主に店舗のPR記事を作る仕事に携わっていた。

 「感情のコントロールがうまくできなくて、わけもなく不機嫌をまき散らしてしまうことってよくありますよね。あの日も私はなぜか憂鬱で、その気持ちを引きずったままクライアントとの打ち合わせに向かったんです」

 憂鬱の理由は、思い出せないほどささいなこと。訪問先の美容室の店長と話し始めてほどなく、松田さんはいきなり怒鳴られた。

 「そんな仏頂面で来るな! 自分の機嫌くらい、自分で取ってこい!

 いつもは優しい店長の豹変(ひょうへん)ぶりに驚くと同時に、その瞬間、「慣れから来る甘え」を自覚したという松田さん。その後は、店長の愛ある助言を胸に刻んで、仕事に向き合うようになった。

私は、感情をまき散らす傾向がある

 とはいえ、日々の仕事の中で緊張や疲労の波を受け、どうしても負の感情がダダ漏れしてしまうことはある。仕事は好きだけど、会社に行くのが憂鬱な朝もある。特に社内のメンバーには、身内だという安心感から、つい甘えが出てしまう。

 「20~30代は、放っておくと不機嫌をまき散らしていたと思いますよ。それで、長い時間をかけて気づいたんですよね。私は、感情をむき出しにしやすいタイプなんだ、と……」

「ようやく40代に入ってキャラ変できましたが、当時は、職場でこわキャラと思われていたと思います…(笑)」
「ようやく40代に入ってキャラ変できましたが、当時は、職場でこわキャラと思われていたと思います…(笑)」

 どんな状態になると落ち込むのか、どんなふうに気持ちが浮上するのか。自分を観察して分析することで、自身の傾向をつかんだ松田さんは、割り切って「自分のご機嫌ボルテージが上がるテクニック」を開発することにした。