未熟だからこそ失敗を受け入れられた

 この経験が自分を見直すきっかけになった。

 「自分では共有しながら進めているつもりだったけれど、みんながそう感じないならできていなかったということ。みんなを困らせたかったわけではないし、より良くするためと思ってのことで結果的に困らせてしまっていたので、私は真っ先に『ごめんなさい』と謝りました。私に意見するのも勇気が必要だっただろうから、言ってくれたことに感謝しました。私の考えを一つひとつ説明すると理解してくれたので、そこから仕切り直しです。

 でも、しょっぱなで失敗してよかったと思います。新任の店長でまだまだ未熟という自覚があったからこそ、素直に失敗を受け入れられたのかもしれません」

 失敗を糧に試行錯誤を重ねつつ、自らのアルバイト経験も生かしてその後は順調にリーダーとしての力をつけていった。

 「例えば何かを『良い』と思ったとき、自分の中ではそれが正解になりますが、本当に正解かどうかは客観的には分かりません。だから立場は関係なく、周りの人の意見を大事にするようになりました。自分がアルバイトだったときを思い返すと、相談に乗ってくれるのはもちろんですが、私たちにも相談してくれる店長を信頼していたなと思ったんです。決まったことをただ共有するだけじゃなくて相談してくれると、一緒に店をつくっている、自分もお店づくりに参画している感じがアルバイトの頃にあったので、そういう気持ちも改めて思い出しました」

 念願の店長に就任し、責任を持ってお店をつくりあげるよろこびと充実感でいっぱいの毎日を送っていた江澤さん。ところが、3年後、全く希望していなかった部署への異動が決まると、モチベーションが低下してしまった。

「店長になってからは、とにかく目の前の仕事に全力投球。この頃には、将来どうしようといった迷いや悩みは吹っ切れていました」
「店長になってからは、とにかく目の前の仕事に全力投球。この頃には、将来どうしようといった迷いや悩みは吹っ切れていました」

 下編 スープストック副社長江澤身和 部署異動で悩んだ過去へ続く

取材・文/高橋奈巳(日経xwoman doors)写真/洞澤佐智子

下編「スープストック副社長江澤身和 不本意な異動悩んだ過去」では、次のストーリーを展開

■「何のための仕事か分からない」異動でキャリア迷子に
■苦手な仕事だったからこそ、好きなことに気づけた
■34歳で取締役、37歳で副社長に就任
■無駄なことは何もない、自分の枠を自分で決めない