何かを成し遂げた女性は、華々しいキャリアで順風満帆に見える。でも実は、見えないだけで、思い通りにいかず悔しくて、泣いて、もがいて、落ち込んで……「失敗だらけの道」を歩んでいるのかも。先輩たちの生々しい失敗談に、転機の乗り越え方、転び方、失敗を最高の糧にするヒントを学ぶ連載。今回は、シンガーソングライター/作詞作曲家として活躍中で、テレビアニメ『鬼滅の刃』のオープニングテーマ曲でヒットした「紅蓮華」を手掛けた草野華余子さんの失敗図鑑(上編)です。

「紅蓮華」作曲家 草野華余子 情熱と声を失ったあの日 ←今回はここ
草野華余子 チームで紅蓮華制作、死ぬまで音楽と生きる

20代は失敗の繰り返し

 「もし、私がこれまで成功の連続でやってきたように見えているなら、『よっしゃ。私、うまいことやっているぞ。しめしめ』って感じ」

 まるでいたずらをした少女のような表情でこう話すのは、シンガーソングライター/作詞作曲家の草野華余子さんだ。多くの人気声優やアーティストに楽曲や歌詞を提供し、自身もライヴ活動やアルバムをリリースするなど、幅広く活躍している。歌手のLiSAさんに楽曲を提供した「ADAMAS」「紅蓮華」の大ヒットも記憶に新しい。

「仕事でもプライベートでもつらいことがあったとき、その経験を次にどう生かしていくか、そこで感じたことをどうやって音楽にするかを考えています」
「仕事でもプライベートでもつらいことがあったとき、その経験を次にどう生かしていくか、そこで感じたことをどうやって音楽にするかを考えています」

 現在、日本の音楽シーンにおいて、その存在感を高めている草野さんだが、意外にも「自分の力で夢をかなえてきたとは思わない」と言う。

 「どちらかといえば、私は失敗してきたというより、成功したことがない。これまでのキャリアは、楽曲を提供したアーティストやアニメのコンテンツの力によるところが大きいと思っているので、『自分の力で何かを成し遂げた』と実感したことは一度もないんです。特に20代は、失敗の繰り返しだったと言ってもいい。ギターを持って、ライヴをして、何千人も集めたいっていう夢もかなわなかった。28歳ぐらいで好きな人と結婚できたらいいなと思っていたけれど、 その時期に付き合っていた人とは結婚しなかった。ことあるごとに、これでいいのだろうかと悩み、リスキーなほうを選び続けてきました。そのたびに、あぁ、失敗したなと思いながら生きてきたんです」

 それでも、「私にとって失敗とは、夢に向かってジャンプする前のしゃがむ瞬間。だから、失敗もポジティブに捉えています。たとえ失敗しても、後から自分で失敗にしなければいい」と話す。草野さんがこう思えるようになった背景には、28歳のときに経験した「空っぽの半年間」があった。