「できるふり」をして失敗続きの会社員時代

 野々村さんが勤めていた会社は小規模のため、社長の愛犬の世話も社員の仕事の一つだった。犬が敷地内で排せつしたときは、気づいた人が専用の掃除道具で片づけるきまりがあったが、いつも見て見ぬふりをしていた。ある日、それを指摘され、しぶしぶ腰を上げてきまりを守らず適当に処理したところ、皆の前で社長から大目玉をくらってしまった

 「芸人時代は、しれっとボケて笑いを取るのが私の得意分野で、大きく滑ったことはなかった。それに、スケジュール調整や移動など、いつもマネージャーが先に準備してくれていたので、世間知らずのところがありました。ところが、一般社会ではボケは求められていないし、失敗したら本気で怒られる。私はもっと人としてしっかりせなあかん、人に迷惑を掛ないことが大事なんやと、自分なりに準備に力を入れたり、何度もチェックしたりしました。

 でも、会社員時代で一番よくなかったと思うのは、できるふりをしてしまったこと。分からないのに、素直に『教えてください』と言えなかったんです。私自身もどこかで、恥をかきたくないと思っていたし、できない自分と向き合うのが怖くて、逃げてばかりいたんですよね」

 入社から半年後、野々村さんは会社を退職。最初は新鮮で楽しめていた事務の仕事にマンネリを感じるようになり、失敗も続き、やはりテレビ業界に戻りたいと思ったからだった。

「最初は書類に判子を押しているだけでも楽しかったんです。でも、だんだんマンネリを感じるようになりました」
「最初は書類に判子を押しているだけでも楽しかったんです。でも、だんだんマンネリを感じるようになりました」