30代は波乱の始まりだった

 「カリアングを立ち上げたときは、本当にファッションへの情熱だけで進んでいました。誰に遠慮することなく、やりたいことがやれて、好きなものがつくれる。20代では自分にものづくりは向いていないと思ったけれど、やってみてよかった。次々とデザインのアイデアが湧いてきて、企画も苦じゃない。何をやっていても楽しくて、天職だと思えた時期でした」

 森本さんがセンスを遺憾なく発揮したカリアングは、全国の百貨店で展開が決まるなど、すぐに軌道に乗った。他にもいくつかの別ブランドを立ち上げたり、大手メーカーとライセンス契約を結んだりしながら、事業の幅を広げていった。

 ところが、31歳を迎えた頃、信じられない事態が起こる。経営を任せていた役員が会社のお金、3億7千万円を横領したのだ。裁判で闘ったが、最終的にお金が戻ってくることはなく、森本さんは横領された金額とほぼ同額の借金を背負うことになった。(現在は完済)

 「その役員を信頼していたというより、私は経営については門外漢だから、口を挟むべきでないと考えていたんです。違和感を覚えるときはありましたが、自分にできないことをやってもらっているんだからと思い、何も言えなかった。本当は、代表である自分がもっと気にしなければいけなかったし、おかしいと感じたら、きちんと言わなきゃいけなかった。服作りや店舗運営に熱中するあまり、冷静さや客観的な視点を持てなかったんです。それが反省でもあり、後悔していることでもあります」

「誠実に頑張っていたのに、ズルをした人から『お金は使ってしまったから、もうありません』と言われたらどうにもならない。真面目にやっているほうが損をするんじゃないかと、世の中を信じられない気持ちになりました」
「誠実に頑張っていたのに、ズルをした人から『お金は使ってしまったから、もうありません』と言われたらどうにもならない。真面目にやっているほうが損をするんじゃないかと、世の中を信じられない気持ちになりました」

 失意のどん底の中、不幸はさらに続く。夫との間に離婚問題が発生したのだ。

 後編「森本容子 横領、離婚、不育治療…激動の30代を経て出産」に続く

取材・文/高橋奈巳(日経xwoman doors) 写真/洞澤佐智子