重大なミスをするも謝れなかった

 「私がアルページュに入社したとき、実は業績がよくなかったんです。社内で『こんな厳しい状況の中に社長の娘が来たところで何が変わるの?』というような空気を感じ、もっとしっかりしなければと思いました。でも、一度他のアパレル企業で働いたとはいえ、販売職だったのでアルページュの卸売業の流れが全然分からない。それなのに、先輩たちに素直に質問したり聞いたりできなかった。経営者である両親とは何度もぶつかったし、叱責されました。自分が重大なミスをしたくせに、悔しくてきちんと謝れなかったこともあります」

「ワンピースを作るとき、裾に付けるレースの色を間違えて指示してしまい、1品番販売できなくなる事態を引き起こしたり、仕入れの数をミスしたりしたこともあります。失敗するたびに怒られましたが、当時は自分の間違いを認めるのが嫌で素直に謝れなかった」
「ワンピースを作るとき、裾に付けるレースの色を間違えて指示してしまい、1品番販売できなくなる事態を引き起こしたり、仕入れの数をミスしたりしたこともあります。失敗するたびに怒られましたが、当時は自分の間違いを認めるのが嫌で素直に謝れなかった」

 野口さんは、20代の最も大きな失敗は「いつも張りつめていて、周囲にも自分に対しても厳しい態度を取ってしまったこと」だと振り返る。

 「私はもともと負けず嫌いでしたが、アルページュに入ってからは『会社をなんとかしなきゃ』 『周りに認められなければならない』という気持ちが強すぎて、1人で空回りしていたように思います。自分が一番精神的にきつかったのは、27、8歳の頃。今だからこそ冷静に分析できますが、当時はこんなに頑張っているのにどうして認めてもらえないの? と思っていたんです。

 現状の課題をリストアップして一つひとつ解決していけば、成果が出せると考え、実際に一生懸命頑張っていた自負はあります。でも、うまくいったときは有頂天になるくせに、うまくいかないときは落ち込んだりピリピリしたりしていました。感情の起伏を上手にコントロールできなかったんですよね」

 公私において常に張りつめていた野口さんだったが、会社の業績を上げていくための青写真はしっかり描いていた。日々の業務を通じてアパレル市場を俯瞰(ふかん)し、これからはブランド力が必要だと考え、アルページュでも自社製品を作り、販売すると決めた。