何かを成し遂げた女性は、華々しいキャリアで順風満帆に見える。でも実は、見えないだけで、思い通りにいかず悔しくて、泣いて、もがいて、落ち込んで…「失敗だらけの道」を歩んでいるのかも。先輩たちの生々しい失敗談に、転機の乗り越え方、転び方、失敗を最高の糧にするヒントを学ぶ連載。今回は、複数のレディースアパレルブランドを展開するARPEGE(アルページュ)代表、野口麻衣子さん(47歳)の失敗図鑑(下編)です。

(上)アルページュ社長野口麻衣子 自己肯定感低過ぎた20代
(下)アルページュ社長野口麻衣子 孤独と不安で産後うつ ←今回はここ

産むか産まないかで悩んだ30代前半

 『Apuweiser-riche(以下、アプワイザー・リッシェ)』や『JUSGLITTY(以下、ジャスグリッティー)』など、幅広い年齢層の女性から支持を集めるアパレルブランドを展開するARPEGE(以下、アルページュ)の代表を務める野口麻衣子さん。23歳で両親が創業したアルページュに入社し、29歳のときに、これまでのアパレル卸売業から自社で企画、生産、販売するブランド事業へ転換を試み、小売市場に進出した。

 野口さんが手がけた同社初の自社ブランド『アプワイザー・リッシェ』は、ほどよい華やかさとフェミニンなデザインで若い女性を中心に瞬く間に人気となり、それまで厳しかった会社の業績は回復。周囲からも次のブランドを期待され、野口さん30歳のときにより大人っぽさを意識した『ジャスグリッティー』を発表。主に働く女性の間で好評を博し、アルページュはアパレルブランド企業として存在感を高めていった。

 しかし、この頃の野口さんは、順調に会社が発展していく一方で子どもを産むか産まないかについて真剣に悩んでいた

 「私は学生時代から、結婚や子どもを産むことに積極的ではなかったんです。たまたま相性のいい人と出会い、自然な流れで結婚しましたが、私には会社を継ぐ使命があるし、仕事を第一優先に生きていくつもりでした。私は出産のために仕事を休むことも辞めることもできないのだと思ったら、あきらめたほうがいいのかな? と考えるようになったんです。

 入社以来、ずっとそんな気持ちでいたのですが、結婚10年目を迎えると、気持ちに変化がありました。30歳を過ぎ、妊娠のタイムリミットを自覚したときに、夫と『やっぱり子どもがほしい』と話し合い、幸運なことにそれから間もなく第1子を授かりました」

 一般的に、親にとって娘の妊娠報告は喜ばしいものであるはずだが、野口さんの場合は「両親に伝えるときはものすごく緊張した」と言う。