会社の意義を理解していなかった

 「とにかく、お客様が大好きで。一生に一度の大切な式だから、希望はすべてかなえたいと考えました。特に予算のやりくりで悩む方が多かったので、私は見積もりの段階で価格を抑えられるよう工夫。例えば、装飾やコース料理などの余分なオプションなどは省くよう提案していました。

 その結果、お客様には喜ばれ、信頼を得られました。この仕事では、お客様から担当替えを言われるケースも少なくないのですが、私は1回もなかった。でも、今振り返ると、何て勝手なことをしていたんだろうって思います」

 当時は、顧客の気持ちを優先するあまり、会社員としての自分の役割をほとんど考えなかった。「単価を下げれば、お客様が喜ぶ」と信じるあまり、上司の指示はこっそり無視。総合的な売り上げを重視する会社の方針に否定的になっていた。

 「この頃の私は、価格の本当の意味を理解しようとしていなかった。額面だけで、価値を判断してしまっていたんです。例えば、装飾品もアルバムも、料理も、どれだけの人が関わっているのかとか、作り上げるまでにどれほどの工程があるのかとか、想像すらしていませんでした。

 会社に対しては、『売り上げのいい社員ばかりを評価する』『お客様の気持ちを考えていない』と、批判的な気持ちでいましたが、売り上げがなければ、事業も運営できないし、社員も雇えない。会社が不安定になったら、お客様にも迷惑がかかる。こうした社会の基本的なことすら分かっていなかったんです。お客様には信頼されたけれども、会社員としては失格だったと思います」

「今でも当時のお客様とお付き合いが続いていて、連絡を取り合うことも。会社員としては間違っていたかもしれませんが、ここで身に付けた『相手の目線』に立つ姿勢は、現在の講演活動で役立っています」
「今でも当時のお客様とお付き合いが続いていて、連絡を取り合うことも。会社員としては間違っていたかもしれませんが、ここで身に付けた『相手の目線』に立つ姿勢は、現在の講演活動で役立っています」

 会社への不満は抱えながらも、ウエディングプランナーの仕事は楽しくて仕方なかった。しかし、結婚式当日は、1つのミスもあってはならないため、つねに緊張状態が続いた。毎日納得いくところまで仕事を進め、プレッシャーで安眠できない夜が続いた小林さんは無理を重ねてしまう。3年目に多忙による疲労やストレスから、じんましんが止まらなくなり、とうとう退職を決めた。

 下編 元ビリギャル小林さやか コロナ禍で知った自分のおごりへ続く

取材・文/高橋奈巳(日経xwoman doors) 撮影/小野さやか