自分を勝手に追い込んだ先入観

 「え、マジで! って、とても驚きました。何に驚いたかって、普通にいい人たちじゃん! ということに、です(笑)。二人は落ち込んだ私を励ますために日本語をひそかに練習してくれていたんです。私は勝手に、『エリート=できないやつを切り捨てる冷酷な人種』だと決めつけていたんですよね。グローバルエリートってそんなもんでしょ、と。

 ところが、彼らは全然違う。お節介なほどに気にかけてくれて、『君はあまり発言しないけど、発言するときはすごくいいことを言うから、みんなちゃんと評価してる』と励ましてくれた。『私はどうせ、みそっかす扱いされているに違いない』と思い込んでいたので、彼らの言葉に本当に救われました」

今でも、怖気づいて逃げたくなるが…

 マッキンゼーでは8年強の間、金融、小売り、通信、公的機関など数多くの企業の経営変革プロジェクトに従事した。その経験が後に「企業の変革デザイナー」として独立することにつながるが、この強烈なMBA研修体験は忘れ得ない。

 なぜなら、佐々木さんは「ふと怖気づいて逃げ出したくなる気持ちになることは、いまだにあるから」

「今でも、『逃げたい!』という気持ちが起きないわけじゃない。そのたびにあのときのことを思い出すんです」
「今でも、『逃げたい!』という気持ちが起きないわけじゃない。そのたびにあのときのことを思い出すんです」

 だが、徐々に「怖気づいてる場合じゃないんだよなぁ」と自分を鼓舞できるようになったことも確かだ。

 「最近は、怖気づいている自分も受け止めた上で、割と短時間で気持ちを切り替えことができるようになりました。私の周りには、どんなチャレンジでも、怖気づかずに挑んでいく人たちがたくさんいる。でも、彼らと深く知り合い、一緒に挑戦をしていく中で、気付いたんですよね。みんな、全然怖くないわけじゃない。怖いと思う自分も受け入れた上で、気持ちを切り替えて前を向いて歩く選択をしているだけなんだって」

 下の「発熱の娘を残し海外出張『もっと大事なことが…』と帰国」へ続く。

取材・文/茅島奈緒深 写真/洞澤佐智子