ラブストーリーを描きながら自分の恋愛は後回し

 甘い、切ない、ドキドキ、キュンキュンする……そんな感想を多くもらうラブストーリーを描いている折原さんだが、プライベートではなかなかそんな気持ちになる時間はなかったそうだ。

 「漫画も小説も締め切りがあるので、いつも時間に追われている感覚でした。でも、本当に仕事が楽しくて仕方なかった。デートの約束があっても、締め切りが頭から離れなくて、結局ドタキャン(笑)。そんなことを繰り返していたので、なかなか恋愛はできませんでした。目の前の1人の男性と自分の漫画や小説を待ってくれている何万人の読者さんとどちらかを選べと言われたら、当然後者が大事ですから。これも20代の大きな失敗と言えますね(笑)」

「20代は立ち止まる時間なんてなかった。仕事の受け過ぎで連載を落としたり、単行本の発売を遅らせてもらったりしたこともあります。そのときは読者の皆さんに申し訳なくて、ガクッと落ち込んでいました」
「20代は立ち止まる時間なんてなかった。仕事の受け過ぎで連載を落としたり、単行本の発売を遅らせてもらったりしたこともあります。そのときは読者の皆さんに申し訳なくて、ガクッと落ち込んでいました」

 自分の頭の中で描いた世界を漫画や小説で表現することに全力を注いでいたが、30歳を迎える頃、折原さんはふと「このままだと、自分の中の『ときめき』が枯渇する」という不安に襲われた。

 仕事は楽しかったが、とにかく忙し過ぎて創作以外のことを考える余裕はなく、ひたすらアウトプットし続ける毎日に危機感を抱き、思い切って生活を変えると決めた。

 「このまま描き続けていても、ストーリーや創作意欲が枯渇すると感じたんです。私の創作の原点は『ときめき』。例えば、学生時代に『あの先輩ステキだな』とか、『こんな展開になったらいいなぁ』と思っていたこと、映画や音楽、きれいな景色に感銘を受けたりしたことを創作に反映させていました。私はモノを描くことは、自分の経験や知識、気持ちや感動を基にして作品を生み出す作業だと思っています。私も、自分のささやかな人生経験や恋愛経験、その時に感じた気持ちを膨らませて漫画や小説を描いてきました。でも、そういったことに思いを巡らせることやインプットの時間がほとんどなくなり、ここで一度ペースダウンしなければと考えたんです」

 33歳のとき、タイミングを見て仕事量を減らし、自然あふれる湘南に自宅を購入し引っ越した。同時に大好きだった犬を迎え、心機一転。それまでの昼夜逆転の生活を改善し、アウトドアや近所の人との交流を楽しむようになった。

 自分自身の生活も大事にする30代が始まったが、40歳のときに折原さんは慣れない店舗経営を始め、つまずくことになる。

「取材旅行で出かけた小笠原諸島で自然のすばらしさに感動して、自然のある場所で暮らしたいと思ったんです。小さい頃から海が好きでしたし、犬と過ごす生活をしたかったこともあり、都会の中目黒から引っ越しました」
「取材旅行で出かけた小笠原諸島で自然のすばらしさに感動して、自然のある場所で暮らしたいと思ったんです。小さい頃から海が好きでしたし、犬と過ごす生活をしたかったこともあり、都会の中目黒から引っ越しました」

取材・文/高橋奈巳(日経xwoman doors) 写真/稲垣純也

下編「折原みと カフェ経営で失敗 やっぱり私は漫画家」では、次のストーリーを展開

■充実の30代、40代ではまった大きな落とし穴
■慣れない経営、マネジメントに悩む日々
■普通過ぎる自分がコンプレックスだった
■何事も「できたらラッキー」、失敗したら「できなくて当たり前」