プライベートの可能性とキャリアアップ、どちらも捨てたくない

 好成績を収めたことで、上司の見る目も変わり、矢内さん自身もますます仕事への意欲を高めていった。「次のステップとして、もっと広い世界を見てみたい」と考えた矢内さんは、4年目の終わりに、銀行が教育プログラムの一環として行っていた大手化粧品メーカーへの出向に挑戦を決めた。

 このプログラムは、約10カ月間、大手化粧品会社のブランドチームに入り、マーケティングなどの実務を通じて、製品開発の流れや融資したお金がどのように使われているかなどを学ぶもの。銀行の業務以外を知らなかった矢内さんにとっては、視野を広げる絶好の機会になった。

 「銀行はどうしても固い雰囲気がありますが、化粧品会社は女性社員が多くて明るく、仕事の進め方も全く違うのでカルチャーショックを受けました。ぱぁっと視野が広がった感じがしましたね。でも、マーケティングの基礎知識もなく、分からないことだらけ。いただいた仕事をこなすだけで精いっぱいでしたが、その場に適応しながら、できることをやっていく柔軟性が身に付いたと思います」

 約1年後、本部へ戻った矢内さんは、銀行に貢献したい気持ちが高まる半面、銀行特有の古い体制に窮屈さを感じていた。

 「この頃、27歳になっていて、自分の人生が見えなくなった感覚がありました。自分はこのままでいいのか、他の選択肢もあるのではないかと思うようになったんです。当時、職場の人間関係も良好で、担当する企業の規模も大きくなり、銀行員としてはキャリアアップしていました。でも、自分の重責を受け止めつつも、内心では葛藤していたんです。

 次のキャリアとして海外勤務を考えていたのですが、実現するかもしれない状況が近づくと、立ち止まってしまいました。私は、結婚や両親、趣味や仕事以外の人生など、さまざまな要素を大事にして生きていたかったのに、海外に行くことで逆に自分の可能性が狭まるんじゃないかと思ったんです」

「海外勤務を経験したい気持ちがあり、社内で希望を出し続けていましたが、いざ次の異動で決まるかもしれないという時期に迷いが生じました」
「海外勤務を経験したい気持ちがあり、社内で希望を出し続けていましたが、いざ次の異動で決まるかもしれないという時期に迷いが生じました」