副業で組織に縛られない働き方を知る

 海外勤務に迷いが生じ、転職も考えたが、なかなか希望に合う会社は見つからない。唯一、外資系コンサルティング企業に興味を引かれたが、知人から競争が厳しく、激務になりがちだと聞くと、決断できなかった。

 「海外転勤も転職も決めきれなかったのは、仕事に偏った人生になることに不安があったから。特にライフイベントに関わる予定はありませんでしたが、いつ何が起こるか分かりません。アラサーで仕事を優先していいのだろうか、プライベートの人生の可能性が狭まるのでないかと、もやもやしていました」

 そこで、矢内さんは個人事業主や会社経営をしている人の話を聞く機会を増やし、その中でフリーランスの働き方に興味を持った。目からうろこが落ち、「フリーになる道もある」と考えたが、いきなり独立してもリスクが大きい。まずは、これまでの営業経験を生かし、フリーランスの営業代行として副業を始めると決めた。

「副業で営業代行を始めるに当たり、セールスコミュニケーションを本格的に学び、専門家によるコーチングを受けました。企業名ではなく、自分の名前で仕事ができるようになりたかった」
「副業で営業代行を始めるに当たり、セールスコミュニケーションを本格的に学び、専門家によるコーチングを受けました。企業名ではなく、自分の名前で仕事ができるようになりたかった」

 「組織はルールがあるけれど、個人事業主なら制約が少なく、自分の思う通りに提案したり進めたりできます。開始当初、副業は土日だけと考えていたのですが、どんどん楽しくなってきて終業後の平日の夜も取り組むように。睡眠時間が取れない日もありましたが、やりたくてやっているので、疲れを感じませんでした。自分の裁量で動けるのが楽しくて、『この働き方が合っている』と思うようになりました」

 矢内さんは、副業で銀行員と同じぐらいの収入を得られるようになったら、独立しようと考えていたが、想像していたよりも早くその時はやって来た。

 後編 矢内彩 31歳で自己破産は幸せになるための決断

取材・文/高橋奈巳(日経xwoman doors) 写真/洞澤佐智子

下編「矢内彩 31歳で自己破産は新たな一歩のための決断」では、次のストーリーを展開

■自分の可能性を広げるため、28歳で副業開始
■「融資が下りない」、8千万円の借入金に絶望
■自己破産は幸せになるための決断
■自分で責任を取ることが成長につながる