「女性演出家」としての失敗は絶対にできない

 小林さん自身も、男性社会で生き抜くために多くの悩みを抱え、それを乗り越えてきた。

 「女性というだけで、演出家としてチームを引っ張る難しさを感じたことも多くあります。一緒にクリエイトする男性より前に飛び出して失敗したこともある。リーダーとして自分の思い描いている世界までみんなを引っ張っていけなかったときもある。男性スタッフを相手に必要以上に(女性相手には必要のない)根気強く励ますなど、『自分が女性であること』で気を使う場面もたくさん経験してきました。

 でも、長く男性社会が続いた商業演劇界で、今、私が歩んでいるこの道は、結婚や子どもを持つことなど、いろいろなものを犠牲にしてでも前に進んでくれた女性の先輩たちがつくってくれた道。私も、後に続く後輩のために『女性の演出家』として絶対に失敗することはできないと思っています。過渡期だからこそ、『だから、女性はダメなんだよ』なんてこと を言われないように、後進に新しい道をつくっていけるように、と思っています」

 演劇界に限らず、男女平等というテーマは、今や日本全体の課題だ。世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数」では、2019年、日本は121位という過去最低の順位となった。

 小林さんは、自身の作品を通してこうした社会に貢献していきたいという。「これまでも作品の中にジェンダーについてのメッセージを込めてきました。今後はもっと色濃く反映させていきたいと思っています」

 続きは、「演劇界の働き方改革『エンドレス稽古をやめた』小林香

取材・文/磯部麻衣 写真/鈴木愛子