何かを成し遂げた女性は、華々しいキャリアで順風満帆に見える。でも実は、見えないだけで、思い通りにいかず悔しくて、泣いて、もがいて、落ち込んで……「失敗だらけの道」を歩んでいるのかも。先輩たちの生々しい失敗談に、転機の乗り越え方、転び方、失敗を最高の糧にするヒントを学ぶ連載。今回は、演出家として数々の人気舞台を手がけてきた小林香さんの失敗図鑑(上編)です。
(上) 演出家・小林香 ずっと男女不平等に疑問を抱いていた ←今回はここ
(下) 演劇界の働き方改革「エンドレス稽古をやめた」小林香
同志社大学法学部を卒業後、上京し、演劇プロデューサーとして活動。その後、舞台演出家として独立し、これまでに数々の舞台演出を手がけてきた小林香さん。
演出家として独立してからは、井上芳雄さんなど豪華キャストが名を連ねるシアタークリエの『SHOW-ISMS』といったオリジナルショーやミュージカル、サンリオピューロランドの名物パレードの脚本・演出を担当するなど様々な分野でヒットを生み出し続け、アーティストからの指名でコンサートやディナーショーも多く手がけている。
2020年は、コロナ禍で舞台やショーの公演中止が続き、大きな痛手を負った演劇界。そんな中、小林さんはいち早くオンライン公演に着手し、8月には、帝国劇場で女性演出家初となる舞台『THE MUSICAL CONCERT at IMPERIAL THEATRE』のオンライン公演も行うなど、実力派演出家として、今、注目を集めている。
だが、こうして華々しく活躍する小林さんにも「今まで数えきれない失敗があった」という。
同志社大学を卒業後、アシスタントプロデューサーとしての下積み期間を経て、プロデューサーとして史上最年少で東宝と契約。堂本光一さんが主演を務めるミュージカル『SHOCK』や『レ・ミゼラブル』、『ミス・サイゴン』などの海外ミュージカルのプロデュースに携わってきた。
「実は、演出家になりたくて東京に来たのですが、何事も経験だと思い、最初は東宝でプロデューサーのアシスタントになったんです。演出家は、現場で役者への演技指導や照明や美術、音響効果など舞台全体の指示や決定を担うのが主な仕事。一方プロデューサーは、進行管理や予算組みなど、現場から少し離れたポジションで全体を統括するのが主な仕事です。演出家のものづくりとプロデューサーの興行的なものづくりは異なるもので、やればやるほど『これは自分の行きたい方向じゃない。このまま年を重ねると舞台演出家になれないかもしれない』という焦りを感じていました」
「自分の居場所はここではない」という気持ちを抱えたものの、小林さんはその後、転身することなく約7年間プロデューサー業を続ける。それは、ある失敗がきっかけとなったからだという。