何かを成し遂げた女性は、華々しいキャリアで順風満帆に見える。でも実は、見えないだけで、思い通りにいかず悔しくて、泣いて、もがいて、落ち込んで……「失敗だらけの道」を歩んでいるのかも。先輩たちの生々しい失敗談に、転機の乗り越え方、転び方、失敗を最高の糧にするヒントを学ぶ連載。今回は、演出家として数々の人気舞台を手がけてきた小林香さんの失敗図鑑(下編)です。

(上) 演出家・小林香 ずっと男女不平等に疑問を抱いていた
(下) 演劇界の働き方改革「エンドレス稽古をやめた」小林香 ←今回はここ

 舞台演出家としてミュージカルをはじめ、ショーやコンサートなどこれまでに数々の構成・演出を手がけてきた小林香さん。2017年には第1子を出産し、母と舞台演出家の2足のわらじを履く。

 上編では、プロデューサーとしてのキャリアをスタートした頃の失敗について語ってもらった。今回は、東京・日比谷にある劇場「シアタークリエ」のオープンまでプロデューサーを務めた後、念願かなって、32歳から舞台演出家として走り出した頃の失敗を振り返る。その頃の仕事のやり方が失敗だったということに気がついたのは、実は39歳で「母になってから」なのだという。

井上芳雄など、数々の俳優が信頼を寄せる演出家・小林香さん。コロナ禍でもオンライン公演をいち早く取り入れた
井上芳雄など、数々の俳優が信頼を寄せる演出家・小林香さん。コロナ禍でもオンライン公演をいち早く取り入れた

母となって働き方改革を実行

 「演劇界の稽古って、終わり時間がないようなものだったんです。時間があればいくらでも稽古できるという風潮で、納得がいくものができるまで稽古し続ける。私もずっとそのスタイルでやってきました。

 でも、母となってからはそれが難しくなった。そこで、11時ぴったりに開始して18時ぴったりに終わらせるというスタイルに切り替えたんです。

 18時に終わらせるためには、その日の稽古の道筋をしっかり立てなくてはいけない。今日中にここまでは終わらせるんだ、という気合を入れて一本一本の稽古に挑むようになりました」

 すると、今までのスタイルがいかに非効率的だったかということに気づいたという。なぜなら、稽古中に現場で時折まん延する負の空気が生まれにくくなったからだ。

<小林香さんの失敗年表>17歳 同志社高校在学中にオーケストラを設立/18歳 New York Philharmonicにインターン留学/22歳 同志社大学法学部政治学科卒業/ 演出家・謝珠栄に師事/25歳  上京し、アシスタントプロデューサーに/ (ここで失敗①)/26歳 東宝で史上最年少プロデューサーになる/29歳 プロデューサーとしてシアタークリエのオープンに携わる/32歳 演出家として独立/ (ここで失敗②)/33歳 天皇陛下の御前で音楽劇『絹糸幻想』を披露/37歳 サンリオピューロランド25周年記念パレードを演出し、集客を120%に上げる/39歳 第一子出産/ 産後1ヵ月で『レジェンド・オブ・ミュージカル』の構成・演出にて  復帰/42歳 帝国劇場初の女性演出家として『THE MUSICAL CONCERT at IMPERIAL THATRE』を構成・演出