スーツケース1つに荷物を詰めて

 紫乃さんは、ドイツで外国人だけのドイツ語学校に通い、友人と楽しくやっていたが、夫はそれが気に入らない。「相手は、忙しい自分を支えてもらうために、妻には家にいてほしいという気持ちがあったんだと思います」。でも、活動的な紫乃さんにとっては、仕事もできない、一緒にいる時間もない、束縛もきつい生活は、苦しかった。次第に、紫乃さん一人で一時帰国する頻度も高くなり、そんな結婚生活にますます疑念がわいていた。

 「とにかく距離を置きたいと思って、ついに、大きなスーツケース1つに荷物を詰め込んで、帰国。その後、ドイツには戻らなかった。それが、2度目の家出となりました。2回目も結局、話し合いもせずに出てきてしまって……。

 当時、自分の気持ちは何度も口にはしていましたが、今、思い返せば、もっと徹底的に話せたはず。相手もプライドが傷ついていたんでしょうね。ドロドロしたやり取りもなく、そのまま離婚することになったんです」

うまくいかないのは相手のせいじゃない

 帰国してからは、友人や先輩の紹介で仕事を探し、小さな広告代理店で秘書や企画、営業、郵政省(現・総務省)のIT系プロジェクトなど、さまざまな仕事を体当たりで経験した。筋道の通ったキャリアではないけど、「何やっても生きていける」。そんな自信はついた。

 2度の結婚で気づいたのは、「結婚は修行だし、自分を知る場でもある。うまくいかないのは相手の問題ではなく、すべては自分の問題だということ」

「自分の問題だった…て、気づいたんですよ」
「自分の問題だった…て、気づいたんですよ」

結婚はこりごり、ではない

 「相手の選び方もそう。まず、自分自身のことをよく知っておかないと、一緒に暮らす相手とうまくいきようがない。2度同じような失敗をすることでやっと、人と一緒に暮らすというのはどういうことか、ちゃんと考え直さなくてはいけない、と思えるようになりました」

 そして、キャリア支援の仕事が軌道に乗り出したころ、42歳で3度目の結婚をした。「さすがに3度目は慎重になりましたけど(笑)、もう結婚はこりごりとは、思わないんですよね」――それは、紫乃さんが、自分自身を知ることができたから。