でも、ちゃんと考える時間がないぐらいに働きづめでした。全速力で走っているけど、走っている方向が本当に合っているという確信はない。もし方向を間違えていたら、どこにも着かない! このままでは何かが違う気がする。でも立ち止まることはできない――。本当に恐怖でした。

 通常、大学で研究室を持つというのは、「これがやりたい」という目的が先にあります。でも、私の場合、研究者になろうという計画が特になかったところに突然「研究室を持ってみたら」という提案を受け、思いがけない形でパッとキャリアが開けました。その結果、周りから研究者として寄せられる期待と、自分がアーティストとしてやってみたいことにギャップが生じているような気もして、「私はそもそも何をやりたかったのか」という問いに直面せざるを得なくなった。それをもっと追求しないといけないと思い、4年間のMITでの超多忙生活を離れ、東京の大学に移ってじっくり考えることを選びました

いつか家族が欲しい? でも、それまでの過程が大変

 仕事の悩みと同時に、もう1つ当時の私を悩ませたのが「私は子どもが欲しいのか?」というテーマでした。仕事をめちゃくちゃ頑張っている人なら、32歳というと、ある程度の業績もできて忙しくなってきている頃ではないかと思います。そんな状態で子どもを持つのって凄く勇気がいる。この感情って、みんなにも共通しているんじゃないかなと思うんです。

 今の日本の社会で「子どもが欲しい」と思えば、たくさんのイベントを乗り越えなくちゃいけないですよね。まずは異性と出会い、恋愛して、結婚して(本当は恋愛や結婚をしなくても精子バンクなどを使って子どもを作ればよいと思うのですが)そこから運が良ければ妊娠して、出産する……。これを忙しい時期に全部するのってなかなかスゴイ。大人になればなるほど時間もなくなるし、気が合う人も減って、周りは既婚者ばかりになるし。

 私もご多分に漏れず超忙しくて。仕事はホント楽しくて最高なんだけど、このまま子どもを持たずに突き進んでいきたいかというと、それも正直分からない。でも数年後に気が変わったら遅いかもしれない……。どうしよう!?

 これを私は「32歳あるある」と名付けました。

 女性として生物学的に子どもを産みやすい期間と、仕事上の大切な期間が重なっているから、正直、どうしていいか分からなくなっちゃうし、双方において全力投球することがすごく大変になる。これが現代の女の人に存在する最もやっかいなガラスの天井だと私は感じています。