社員が1日1本多く売れば再生できる

田中 売上高が20億円で借金が14億円という潰れそうな会社で、「あすの支払いどうしよう?」みたいな世界。とにかく売り上げを伸ばし利益を出さないといけない。そのために何が一番必要かを常に考えて行動に移す、それだけですね。

―― 社長に就任されて、社員と直接会って話すために、相当なお金と時間をかけて、全国58店舗を全て回られたそうですね。

田中 社員が眼鏡を1日1本でも、2本でも多く売ってくれれば、会社の状態は格段に良くなると分かっていたからです。当時、1店舗、1日当たりの売上高は平均9万円。客単価が1万円だから客数にすると9人。営業時間は1日12時間なので1時間当たり1本も売っていない。それを1日当たり18本、1時間につき1.5本売ってくれるようにすれば売り上げは倍の40億円になり、借金の返済、商品開発、改装、給与アップが全部賄える。だからこそ、店舗の社員のモチベーションが大切でした。

全国を車で移動し、58店舗を回った。店舗で働く社員と食事会を設けて、現場の本音を引き出した
全国を車で移動し、58店舗を回った。店舗で働く社員と食事会を設けて、現場の本音を引き出した

 全国を車で移動して、車中泊したりしながらスケジュールを詰め込んでやりました。とにかく社員たちの本音を引き出すために食事会を設けたので、その飲食代がかかりましたね。

 1回の宴席にポケットマネーで1万円は使いましたね。会社再建のためでもありますが、同じ目標に向かって頑張ってくれる人たちと共に過ごす時間は、自分を成長させてくれますから。

―― 社員は変わっていきましたか。

田中 会社が苦しい状況だったので、社員も最初は暗く、厳しい表情をしていました。けれど、食事をして、お酒を酌み交わせば少しずつ本音が出てくる。そうすれば会社が抱えている問題の本質にもたどりつきやすくなる。最初は愚痴ばかりの社員も多かったけれど心を開いてくれる社員も増えていきました。

 社員とのやり取りで気づいたアイデアや改善点をその場で全社に向けて発信しつつ、緊急性が高いものはその場ですぐにトップダウンで解決して、時間がかかりそうなものは本社に持ち帰り、対策を練るというようにどんな些細なことでもすべて行動に移していきました。さらに毎日ブログに改革の様子を書きつづって、経営改革の透明性を出していきました。

 こうすることでモチベーションが上がり始めた一部の店舗では、早速店頭で積極的に呼び込みを始めるようになったり、自分たちで閉店後にセールストークを考えて勉強会を開くグループなどが出てきたりするようになったりして、少しずつ売り上げも伸びてきました。

―― その後は、苦しい資金をやりくりし、攻めの姿勢で、商品を開発し、新店を出されますね。