不安を抱えていたフリーター生活

山田 それは不安ですよ。日々不安にさいなまれていました。それまでスーツを着こなす営業マネージャーだったのに、いきなりTシャツとジーパンで物流倉庫で働くことになったのですから。ああ自分はフリーターになったんだなと。先日当時の日記を読み返したら「僕は何者かになれるんだろうか」と弱腰の言葉が書きつづられていました。

 でも今思えば、「これだけ頑張ったのだから、後でいいことがあるに違いない」と会社や周囲に期待をしなかったのがよかったのだと思います。ギブ・アンド・テークという考え方をすると、ついテークに期待し、何かが返ってきたとしても想像以上に小さいものだった場合にイライラしてしまいます。

 一方、ギブすることに喜びを感じられれば、自分の行動次第でうれしい気持ちを保持し続けられます。人はこういう人間のことを「お人よし」と呼びますが、僕の場合はこの性格のおかげでフリーター生活を乗り越えられたのかもしれません。

――そんなフリーター生活にピリオドを打ち、起業されます。

山田 あるときグッチ時代の同僚からメッセージが届いたんです。「今、何やってんの?」と。そして、東京ガールズコレクションの様子などが分かる映像を送り、ちょっと自慢げに「今、これに携わっているんだ」と伝えると、「おまえ、日本発のグッチみたいなの、やるって言ってたじゃん」って言われた。そうだったなと思いながら、やらない言い訳を考えたのですが、言い訳が思い付かなかったんです

 確かにお金は無かったのですが、インターネットで洋服が売れる時代なので、店舗展開にかかる大規模投資が不要です。店が無いと、人をたくさん採用する必要もなくなり、店を広げるための宣伝広告費も要らない。それにLCC(格安航空会社)が発達し、1000~2000円で各地を回れるようになり、工場の発掘もできる。やらない理由が見つからず、渋々起業したという感じですね(笑)。ただ手元にあったのは、なけなしの50万円でした

ーー次回は貯蓄残高50万円を資本金にあてて起業し、事業が軌道に乗るまでのお金とキャリアについてお伺いします。お楽しみに!

取材・文/華井由利奈 写真/花井智子