目標に向かってたゆまぬ努力を続けるオリンピアン。日々の厳しい練習だけでなく、周囲からの大きすぎるプレッシャーにライバル選手の動きなど、超えなければならないハードルがたくさんあります。本連載ではそんな中、彼らはどのようにして栄光の舞台で自分の力を発揮したのかを伺います。今回登場するのは元競泳五輪日本代表の松田丈志さん。後編では厳しい練習、周囲からのプレッシャーに屈しないために活用したノートについて伺いました。現役最後の1ページも見せてくれました。

上 松田丈志 支援先探し、逃した金メダル…葛藤した現役時代
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松田丈志さん
松田丈志さん
1984年宮崎県生まれ。セガサミーホールディングス所属。4歳で東海スイミングクラブに入会し、水泳を始める。周囲の協力で生まれたビニールハウスのプールでの練習が話題になり、久世由美子コーチ指導の下、アテネ五輪から4大会連続出場、4つのメダルを獲得。ロンドン五輪では競泳日本代表チームのキャプテンを務め、200mバタフライにおいて2大会連続の銅メダルを獲得、男子400mメドレーリレーでも日本男子史上初の銀メダルを獲得。32歳で迎えたリオデジャネイロ五輪では日本競泳界で最年長出場・メダル獲得の記録を樹立。800mフリーリレーでは52年ぶりとなる銅メダルを獲得した。2016年の国体を最後に28年の競技活動を引退。現在はスポーツキャスターや、スポーツの普及・発展のために様々な分野で活動を行う。久世コーチとの共著に『夢を喜びに変える自超力』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

ノートで思考の癖を知り、自分をコントロールした

日経doors編集部(以下、――) 前回の松田丈志 支援先探し、逃した金メダル…葛藤した現役時代で、メンタルはテクニック次第でコントロールできるとおっしゃっていました。

松田丈志さん(以下、松田) 本来、ケガさえしなければ、計画通りに練習を積み重ねると結果は付いてくるはずです。でも、プレッシャーに弱い人はレース本番で自滅し、成果を発揮できません。メンタルは、その人の思考次第で、数秒もあれば良くも悪くも変わります。でも、自分の思考の癖を理解できれば、軌道修正ができます

 自分がプレッシャーに弱いと自覚できれば、ライバルの存在やメディア、周囲の声ではなく、ストロークやスタートといった泳ぎの技術に集中するように意識すればいい。意識の矛先を自分に変えれば、余計なことを考えず周囲の雑音に左右されることがないので、プレッシャーや緊張が和らぎ、冷静な自分に戻れます。

 そうした自分の思考の癖を知り、コントロールするために役立ったのがノートです。僕は中学生の頃から練習ノートを毎日書いていて、最初はコーチに書くように言われて始めましたが、次第に書かないと気持ち悪いほどの習慣になりました。