コロナ禍以降、人とのリアルな接点が薄らぐ中で、「思いを言葉にする力」がより求められている。広告代理店・博報堂を定年退職後もスピーチライターとして活動し、ずばぬけた文才に多くのエグゼクティブからの指名が絶えない博報堂フェローのひきたよしあきさん。2019年4月に出版した『5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』(大和出版)は、累計4万5000部15刷のベストセラーとなっている(2020年12月末現在)。今回、日経doorsの連載「私と夫と子どもの話 byはあちゅう」など通じて自らの言葉を発信し続けるブロガー・作家のはあちゅうさんとの特別対談が実現! 日々心の声と大切に向き合いながら、言葉の可能性を追求している二人に、伝える力を磨く方法と、20代からの人生をより充実したものにするためのアドバイスを聞いた。

(1)はあちゅう×ひきたよしあき 相手に伝わる言葉磨く方法 ←今回はここ
(2)はあちゅう 20代はブラックな野心が成長を後押しした
(3)ひきたよしあき 「自分への弔辞」で人生の目標が定まる
(4)はあちゅう×ひきたよしあき 20代でやっておきたいこと

「話し言葉」には瞬発力が必要

日経doors編集部(以下、――) ひきたさんの本のファンでもあるというはあちゅうさん。大手広告代理店出身という共通点があるお二人は、シンプルな言葉で相手に分かりやすく伝える難しさも日々実感されていると思います。はあちゅうさんは自身のYouTubeチャンネルの中で、「対談や書くことは得意だけれど、声に出して誰かに思いを発信するのはすごく難しい」とおっしゃっていたのが印象的でした。不特定多数への音声での発信が難しいと感じた点は何でしょう。

はあちゅうさん(以下、敬称略) 「しゃべり言葉」と「書き言葉」とでは、そもそも脳が使う思考回路が違う気がします。書くときは時間もかけられるし、もう少し自分の内側の深い部分から言葉を引き出すような感覚があるけれど、しゃべるときは、喉のあたりから瞬発的に言葉が出るような感じで条件反射に近い。

 だから、つい思ってもみないことを言ってしまって、「もっとこういう言葉選びをすればよかったな……」と後悔することも結構あるんです。特に今は、悪気なく発してしまった失言がその人の人生を全否定されるほどの大きな炎上要素になりがちなので、瞬発力の必要な「しゃべり言葉」に求められるハードルは日々上がっているように感じますね。

ひきたよしあきさん(以下、敬称略) はあちゅうさんはそうおっしゃるけれど、僕が感じるのは、いろんなユーチューバーの方がいる中で、はあちゅうさんの場合、極めて「しゃべり言葉」が「書き言葉」に近い気がします。おそらくご自分が思っているよりもずっと深いところから、しゃべっているのではないでしょうか。

 特にそれを実感するのが、ボイスメディア「Voicy」での配信です。声だけの配信だからこそ、「伝える力」の力量が問われますが、はあちゅうさんの配信は思わず聞き入ってしまうんですね。一度自分の中に落とし込んで言葉にしているからこそ、表面的にならず、聞き手の心に届くのだと思います。

今回の対談が、リアルでの初対面となった博報堂フェロー・スピーチライターのひきたよしあきさん(写真左)と、日経doors世代のオピニオンリーダーはあちゅうさん(写真右)
今回の対談が、リアルでの初対面となった博報堂フェロー・スピーチライターのひきたよしあきさん(写真左)と、日経doors世代のオピニオンリーダーはあちゅうさん(写真右)