コロナ禍以降、人とのリアルな接点が薄らぐ中で、「思いを言葉にする力」がより求められている。広告代理店・博報堂を定年退職後もスピーチライターとして活躍する博報堂フェローのひきたよしあきさんとインフルエンサーで、日経doorsでも「私と夫と子どもの話 byはあちゅう」を連載中のはあちゅうさんの新春特別対談。日々心の声と大切に向き合いながら、言葉の可能性を追求している二人に、言葉で伝える力を磨く方法と、20代からの人生をより充実したものにするためのアドバイスを聞いた。

(1)はあちゅう×ひきたよしあき 相手に伝わる言葉磨く方法
(2)はあちゅう 20代はブラックな野心が成長を後押しした
(3)ひきたよしあき 「自分への弔辞」で人生の目標が定まる ←今回はここ
(4)はあちゅう×ひきたよしあき 20代でやっておきたいこと

人生の大目標はぼんやりしていていい

日経doors編集部(以下、――) 20代・30代はライフステージが変わりやすく、迷いの多い時期でもあるように思います。そんな働く女性に、将来にわたって「人生の軸」をつくるためのアドバイスをお願いします。

ひきたよしあきさん(以下、敬称略) 僕がお勧めしているのは、「自分への弔辞を書いてみる」ことです。実はこの方法は、僕自身の経験によるもの。数年前にがんを患い、これからの人生をどう生きていこうかと考えていたとき、ハワイ大学名誉教授で死生学を専門にしている吉川宗男先生が、僕にこう言いました。

 「ひきたさんが亡くなって、自分の葬儀の時に友人が弔辞を読む場面を想像してください。そのとき、あなたは『どんな人で、どんな人生を送った』と言われたいですか? その弔辞こそが、あなたの望む『人生の大目標』なんですよ」

 つまり、自分の人生がどういうものであれば幸せかを考えてみるというわけです。そこから逆算していくことで、やるべきことが見えてくる。大きな目標を達成するために10年後にはどんな姿になっていたいか、そのためには1年後までにこれを身に付けようというように、具体的な行動に落とし込むことができます。

はあちゅうさん(以下、敬称略) 私もひきたさんを通じてこの方法を知り、とても感銘を受けたので、自分の弔辞を考えてみました。私の弔辞は、「書くことや発信することで誰かに勇気を与えたい」「『この人は書くことや表現することを諦めなかった』と言われたい」。すごくぼんやりとした目標ですが、きっと一生変わらないだろうなと思います。

ひきた むしろぼんやりしているほうがいいんです。例えば、アップルの創業者スティーブ・ジョブズの目標は、「世界をびっくりさせたい」。ただそれだけ。でも、だからこそ既存の発想や枠にとらわれず、チャレンジをし続け、大成功したとも言えます。作家の村上春樹さんも、「ずっと走り続けていた、少なくとも最後まで歩かなかったと書いてくれ」と本の中に記しています。はあちゅうさんも、時代によって小説を書いたり、ブログを書いたりとカタチは変わっても「書き続ける」「表現し続ける」という目標がある。大きな目標が決まれば、迷わず走っていくことができます。

 20代はいろいろと揺れ動く時期ですから、弔辞もどんどん変わっていい。僕も20代は自分のために走っていたけれど、病気を経験したこともあり、今の弔辞は、「誰かを励まし続けたい」というもの。博報堂で働き始めた20代の頃から学生の就職活動を支援し、8年前からは明治大学で教壇に立って、たくさんの学生たちと触れ合ってきましたが、自信がない子、元気のない子も少なからずいます。そういう子たちを、どんな形であれ、励まし続けたいという思いが、今の僕を動かすエネルギーになっています。

ひきたさんの大目標=自分への弔辞のテーマは、「誰かを励まし続けたい」。はあちゅうさんは「書くことや発信することで誰かに勇気を与えたい」
ひきたさんの大目標=自分への弔辞のテーマは、「誰かを励まし続けたい」。はあちゅうさんは「書くことや発信することで誰かに勇気を与えたい」