すべての睡眠段階に意味と役割がある

 確かに成長ホルモンは眠り始めから2~3時間の間に現れる深い睡眠中(下の図のN3に相当する部分)に分泌されるのですが、だからといって、その時間だけ眠ればいいということにはなりません。そして、そんないびつな眠り方をすると、確実に睡眠時間不足になります。

 上の図(ヒプノグラムと呼びます)は一般的な成人の睡眠の時間経過と、睡眠段階の推移を示しています。入眠後の早い時間に「深睡眠」と呼ばれるノンレム睡眠段階3に入っていることと、明け方に向けて徐々にレム睡眠とノンレム睡眠段階1と2が増えていくことが分かると思います。

 ここで注意してほしいのは、深睡眠が「質の良い睡眠」でそれ以外は大切ではない、という話ではないということです。睡眠には体を休めること以外にも、脳で記憶の定着、取捨選択をする機能があることが分かっているのですが(コンピューターにおけるシステムメンテナンスに相当します)、それには明け方に増えるレム睡眠が大きな役割を果たしています

 さらに、レム睡眠やノンレム睡眠段階1は「浅い(というよりも「深くない」が正確な表現)」から意味がないのではありません。浅いからこそ朝に向かって目が覚めやすい睡眠段階になっていくのです。そこで睡眠時間が足りなければどうなるでしょうか。相対的に深い睡眠であるノンレム睡眠段階3から起床する可能性が高くなります。

 「深い睡眠」というだけあって、この睡眠から覚醒するのは非常に難しく、起床しても覚醒しきれずに「頭がボーっとする」状態になります。このような深睡眠のように、成⻑ホルモンが分泌される時間もあれば、システムメンテナンスのような記憶の取捨選択をやっているレム睡眠の時間もあるということなので、すべての睡眠段階にはきちんとした意味があるのです。

 こうしたことをすべて行うには、人間の場合どうしても7時間半~8時間が必要なので、睡眠時間が短くなってしまうと、できないことが増えることになります。それだけ、メンテナンスには時間がかかるものであり、だからこそ、まずは睡眠の量を確保することが大切なのです。今度会社のPCのシステムメンテナンスがあったら、「ああ、これと同じことを自分の脳で睡眠中にやっているのだなあ」と睡眠に思いをはせてください。

 ちなみに、「肌のゴールデンタイム」が午後10時から午前2時というのは、実はこの時刻に限定された話ではありません。先ほど申し上げたように、成長ホルモンは「眠り始めから2~3時間の間に現れる深い睡眠中」に分泌されるからです。これを睡眠医学では「成長ホルモンの分泌は概日リズムではなく、睡眠ステージに依存している」といいます。