「眠くない=睡眠が足りている」わけではない

 2018年に放送されたNHKの番組をきっかけに「睡眠負債」という言葉がはやりました。そのきっかけになったのは、2003年に発表されたワシントン州立大学のハンス・ヴァン・ドンゲン教授らによる論文です。

 上図のグラフ(A)では縦軸に見落としの回数(いわゆるミスの数)を、横軸に日数をプロットしています。睡眠時間が少なくなり、いわゆる「睡眠負債」が日数を経て積み重なっていくことに比例してミスが増加していくということが示されています。この現象は誰でも身に覚えがあることでしょう。

 一方で、下のグラフ(B)は自覚的な眠気が慢性的な睡眠時間不足でどのように変化するかを示しています。縦軸に眠気、横軸に睡眠時間不足の日数をプロットしています。■の完全断眠(いわゆる徹夜)では、眠気もミスも共に日数に比例して悪化していくことが分かります。

 ところが、慢性的な睡眠時間不足では日数に比例してミスが増えていくのに、自覚的な眠気はある一定以上は横ばいになっていっています。仕事をしていて、「効率は悪い」が「眠気を感じない」という状態に相当し、これは日常的に経験している人も多いのではないでしょうか。

 慢性的な睡眠時間不足では眠気の有無や強弱がパフォーマンスの指標にならない、つまり「眠くないからパフォーマンスは落ちていない」というのは錯覚ということになります。このことから管理職の方には「自己申告の眠気に頼っていては、睡眠時間不足によるミスは減らせない」ということを知っておいてほしいと思います。