睡眠時間不足は心筋梗塞リスクを高める

 睡眠時間不足が長期にわたると、身体的なリスクも上昇します。独立行政法人労働安全衛生総合研究所の「長時間労働者の健康ガイド」には、週労働時間の違いによる「昼間の過度の眠気」や「疲労回復不全」、「短時間睡眠」との関係を調べたデータが掲載されています。これによると、週労働時間51~60時間(月間の時間外労働で45~80時間)から、グンとそれらの割合が増えています。

 これは、労働時間が増えることによって時間の余裕がなくなって就寝時間が遅くなり、どんなに寝ようと頑張っても睡眠時間が十分取れなくなることを意味しています。

 さらに、このガイドには、過去1カ月間の週労働時間が40時間以下(月間の時間外換算で0時間)の人の心筋梗塞リスクを1とした場合、週労働時間が61時間以上(月間の時間外換算で約80時間以上)の人は1.9と、およそ2倍となるという研究が紹介されています。この研究では、過去1年間に勤務した日に睡眠時間が5時間だった人は、8時間だった人に比べて心筋梗塞リスクが2.5倍になるという結果も出ています。

 これらの結果から、「働き過ぎは睡眠時間が削られるため、健康に良くない」ということが導き出せるのです。

 では、いったいどうすればいいのでしょうか。くどいようですが、8時間を目指して寝るしかありません。睡眠時間の量を質でカバーすることはできないので、睡眠時間の確保から逆算して日々のスケジュールを決めてほしいのです。それが、健康の維持につながり、いい仕事(パフォーマンス)につながり、持続可能な働き方につながります。

 世間には、睡眠時間不足に関するさまざまな情報があふれています。「睡眠時間が短くても大丈夫」などという誤った情報も大手を振って出回っています。そんなとき、睡眠時間不足に関してしっかりとしたリテラシーを持って「バカなことを言うな。私は眠る!」と強い意志で反論し、自分と大切な人たちの体と生活を守ってほしい。私は切にそう願っています。

取材・文/荒木晶子、日経doors編集部 イメージカット/PIXTA