平日は残業や友人との付き合いなどで帰宅が遅く、毎日眠い目をこすって仕事をこなし、休日はほとんど寝て過ごして終わってしまう……。そんな生活を送るdoors読者も少なくないのではないでしょうか。睡眠医学発祥の地である米国スタンフォード大学の睡眠医学センターで臨床と研究を続ける河合真先生は、「日本人は慢性的な睡眠時間不足」と危機感を抱き、SNSで「寝よう!」と呼びかけています。第2回は「睡眠不足について知っておくべきリテラシー」についてです。

「睡眠は長さより質」は大間違い

 皆さん、こんにちは。河合真です。

 連載第1回(「とにかく『8時間寝る』に勝る睡眠法はない」)では、日本人の多くが睡眠不足だというお話をしました。ここでいう睡眠不足とは「睡眠時間不足」のことを意味します。というのは、睡眠時間が足りないという話をすると、必ずといっていいほど出てくる反論が「睡眠は長さよりも質が大事なのでは」というものだからです。

 しかし、そもそも何をもって睡眠の「質」とするのかは、とても難しい問題です。研究者によっては睡眠効率(=実際の睡眠時間/ベッドにいた時間)や深睡眠(徐波睡眠やノンレム睡眠の第3段階)の量や比率を「睡眠の質」として議論をすることが多いのですが、一般の方が言う「睡眠の質」は、「熟眠感」を指していることが多いのではないかと思います。熟眠感というのは「いやーよく寝た。さあ、今日も一日頑張ろう!」という主観的感覚です。

 これを達成するには睡眠の質と量の両方が必要ですので、「質」のパラメーターとは言えません。ですから、一般の方が日常の生活の中で「睡眠の質」を議論するのはなかなか難しいのです。

 私は睡眠医学の医師ですから、睡眠の質に対処することが日常の仕事です。ここで大切なことは、医師が睡眠の質の問題を疑うときは、「量」が十分に確保されていなければいけないということです。量が足りた状態でもなお、起きているときにボーっとするような場合に、初めて質の問題が浮き彫りになってくるのです。ここで初めて睡眠関連疾患による睡眠の質の低下を疑います。

 質で量は補えないことの根拠となるお話をもうひとつしましょう。よく、午後10時~翌日午前2時は「肌のゴールデンタイム」なので、この時間に眠ると美肌になる、などと書かれている記事を見かけます。これは、成長ホルモンがこの時間に分泌されることが根拠になっているようです。