平日は残業や友人との付き合いなどで帰宅が遅く、毎日眠い目をこすって仕事をこなし、休日はほとんど寝て過ごして終わってしまう……。そんな生活を送るdoors読者も少なくないかもしれません。睡眠医学の発祥の地である米国スタンフォード大学の睡眠医学センターで臨床と研究を続ける河合真先生は、「日本人は慢性的な睡眠時間不足」と危機感を抱き、SNSで「寝よう!」と呼びかけています。第5回のテーマは「不眠」です。

実は定義が曖昧な「ショートスリーパー」

 こんにちは、河合真です。

 皆さんは、「ショートスリーパー」という言葉を聞いたことがあると思います。簡単に言うと、「睡眠時間が短くても、元気に活動できる人」のことですね。

 「ショートスリーパーになるためには」というような記事をよく見掛けますが、「普段7~8時間眠っている人が、3~4時間の睡眠でそれまでと同様のパフォーマンスを出せた」という話で、きちんとした科学的、医学的根拠のあるメソッドは今のところ聞いたことがありません。ただ、遺伝的にショートスリーパーという人は少数ながら存在するらしいのですが、そういう方はまず医療機関にかかりませんので、私もあまり出会ったことがありません。

 そもそもショートスリーパーの定義も実は曖昧で、短時間の睡眠でもパフォーマンスが落ちなかったとしても、「厳密にみて健康被害はないのか?」と言われると「分からない」としか言えません。よって私は、ショートスリーパーの議論はやるだけ無駄ではないかと考えています。

 さて、睡眠を専門にしていると「不眠」の相談はとても多く寄せられます。前回(睡眠時間不足の深刻な健康リスクは命と「機嫌」)もお話ししたように、睡眠時間不足が心身に深刻な悪影響を与えることは明らかです。なので日本人の不特定多数に発信する場合は、私は「8時間寝ましょう!」としつこいぐらいに言っています。