平日は残業や友人との付き合いなどで帰宅が遅く、毎日眠い目をこすって仕事をこなし、休日はほとんど寝て過ごして終わってしまう……。そんな生活を送るdoors読者も少なくないのではないでしょうか。睡眠医学の発祥の地である米国スタンフォード大学の睡眠医学センターで臨床と研究を続ける河合真先生は、「日本人は慢性的な睡眠不足」と危機感を抱き、SNSで「寝よう!」と呼びかけています。連載第1回は、日本人が失ってしまった「睡眠リテラシー」について話してもらいました。

神経内科医から睡眠医学の道へ

 日経doors読者の皆さん、こんにちは。米国スタンフォード大学で睡眠に関する臨床と研究を行っている河合真です。睡眠研究をする傍ら、SNSなどで睡眠に関する情報を日本語で発信しているのですが、フォロワーから返ってくる反応から日本人の現役で働いている世代の睡眠不足の深刻さ、またその睡眠リテラシーの低さに危機感を抱き、この連載を始めることになりました。どうぞお付き合いください。

 連載を始めるにあたり、まずは自己紹介をさせてください。私は京都大学医学部を卒業し、神経内科で研修を積んだ後に渡米し、さらにレジデンシーとフェローというトレーニングの期間を経て「てんかん症候群」を中心に神経内科医として働いていました。その私が今は睡眠医学を専門にしているのですが、転機となったのは米国の病院でてんかん患者の脳波を24時間モニターしたことでした。

 皆さんも、居眠りなどを除き、家族や恋人以外の他人の寝入っている姿を見ることはほとんどないのではないでしょうか? 私もてんかん患者のモニタリングを通じて初めて家族以外の人間が寝ているところを見て、こんなに身近に「睡眠」という未知の世界があることに気づいて深く知りたいと思いました。そこで、睡眠医学の専門のトレーニングを受けるため、43歳のときに睡眠医学発祥の地であったスタンフォード大学に移ったのです

 最初は臨床のトレーニングからはじめ、その後も実際に患者を診療することに従事していました。しかし、診察しているうちに睡眠にまつわるさまざまな疑問が湧いてきました。「睡眠の質とは、一体何だろう?」「良質の睡眠とはどういうことを指すのか?」「どこを良くすれば、患者さんの睡眠をより良くできるのだろうか?」。こうした疑問を解決するためには研究が必要だと考え、今は臨床と研究を両方やっております。

 私は医学研究者ですが、あくまでも医者の目線でありたいと思っています。ですから、臨床から得た疑問や気付きが研究の原点です。そして、簡単ではないのですが、研究の成果を患者さんにフィードバックすることを研究の目標にしています。純然たる研究者の方は自由な発想で研究をして発表されることが多いのですが、私の場合、最後のステップで「これは果たして目の前の人に伝えて臨床的に意味があるのか?」というワンクッションが入りますので、ともすれば「つまらない」印象を与えてしまいます。それを今から少し説明します。