絶対的だった「正社員」ブランドに陰り? 終身雇用の時代は終わり、転職は当たり前、会社に属さない働き方も増えています。それでも、大多数は正社員を目指す現在。その意味は? 正社員の立場を最大限に利用する方法は? さまざまな働き方の実践者や専門家と一緒に考えましょう。

「何はともあれ、正社員という働き方って、どう見たってコスパは高いですよね?」というシンプルな疑問を、昭和女子大学グローバルビジネス学部長・特命教授で労働経済学が専門の八代尚宏さんにぶつけてみました。

「ケース・バイ・ケース」の真意

 「大枠で言うと、やはり正社員のコスパは高いです。しかし、厳密に考えると、ケース・バイ・ケースといったほうがいいでしょう」と八代さんは言います。「ん、ケース・バイ・ケース?」という表情をした私たちに、八代さんは続けました。

 「例えば、『嫌な仕事はしたくない』『会社の言いなりになりたくない』『急に遠くに転勤しろなんて言われたら困る』といった人にとっては、非正社員の働き方のほうがハッピーなこともあるからです」

 最近ではエンジニア業界で、フリーランスのITエンジニアのニーズが高まるなど、非正社員としての収入が正社員の収入をしのぐケースも出てきました。

 「確かに、優秀な人材であれば、専門性を生かしてフリーランスで稼ぐ人もいるでしょう。でも、皆が皆、そうした能力を持ち合わせているわけではありません」

 八代さんは、一般的に、正社員という働き方がコスパが高いという理由を下記のように挙げます。

正社員のコスパが高い理由
・賃金が毎年少しだけでも定期的に上がっていく(ただし、以前と比べて上昇率は非常に緩やかになっている)ため、そうでない非正社員と比べて給与が高い
・定年までの雇用が保障されている
・出産・育児期の保障がある
・社会的ステータスが高く、住宅ローンも借りやすい

 八代さんは「日本における正社員というステータスは、グローバルな視点から見ても、極めてまれな存在だ」と言いますが、それはなぜなのでしょうか。

 「日本の正社員は、明確な契約を取り交わすことなく、企業から雇われています。知人のアメリカ人からは、日本ではなぜ『契約社員』という言葉を使うのか、とよく聞かれます。これは英語で言うと『contract worker』ですが、アメリカ人にしてみれば、会社員は誰もが企業と契約を取り交わしていますから、全員がcontract workerです。日本では明確な契約を交わしているのが地位の低い非正社員で、交わしていないのが地位の高い正社員と見なされています。国によってこんなにも働き方の常識が変わるのですね」

 「ただし、日本での正社員はメリットも大きい半面、デメリットもあります」と八代さん。日本企業と正社員の関係を「奴隷契約」のようだと皮肉る外国人もいるほどで、定年まで雇用が保障される代わりに、企業から無限定の働き方を強いられます。これは自分の選んだ職務と働く場所以外は拒否できる欧米との大きな違いです。