絶対的だった「正社員」ブランドに陰り? 終身雇用の時代は終わり、転職は当たり前、会社に属さない働き方も増えています。それでも、大多数は正社員を目指す現在。その意味は? 正社員の立場を最大限に利用する方法は? さまざまな働き方の実践者や専門家と一緒に考えましょう。

「踊る広報」――。人材サービス会社ビースタイルの広報、柴田菜々子さんの名刺には、そんな見慣れない肩書が記されています。正社員として働きながら、セミプロのダンサーとして国内外を飛び回る、異色のキャリアを実践する柴田さん。現時点でのコスパは「最高」と語るそのスタイルに、どうやってたどり着いたのでしょうか。

コスパ最悪? 正社員1年で「辞めます」

 「ダンスに集中したいです。だから、会社辞めます」――。柴田さんが、直属の上司にそう伝えたのは、入社して2年目のこと。説得する上司の言葉も耳に入らないくらい、思い詰めていました。

 静岡県出身の柴田さんは、幼少期に地元の新体操クラブに入ったことがきっかけで、ダンスの世界に関心を持つようになりました。プロを目指すことも視野に、ダンスを専門に学べる学科がある都内の大学へ進学。仲間と「TABATHA」というグループを結成し、大学在学時から活動を続けています。

 とはいえ日本では、ダンスだけで生計を立てていくのは難しい実情も。進路に悩み「3カ月だけやってみよう」と決めた就職活動の結果、入社を決めたのがビースタイルでした。

 「『平日は正社員、週末はTABATHAでダンス活動』という働き方を実践すると、自分の中で決めて就職したんです。でも、入社当初は仕事に慣れるだけで精一杯。両立はできませんでした。自分の一部ともいえるくらい大切なダンスに、きちんと向き合えない。それは私にとって、致命的なことだったんです

 ビースタイルでの仕事は楽しく、やりがいを感じていたという柴田さん。一方で「大好きなもう一つの仕事」を続けるには、フルタイムの正社員は忙しすぎました。企業への就職を選んだゆえのデメリットは、日に日に大きく感じられるようになっていたのです。

ダンスとの両立に悩み、一度は正社員の立場を捨てる決断をした柴田さん
ダンスとの両立に悩み、一度は正社員の立場を捨てる決断をした柴田さん