コロナ禍で生き方や働き方が問われる今、必要なのは多様性。ジェンダーフラットな実例から、組織や個人の多様性の在り方を探る企画。日経ウーマンエンパワーメントプロジェクト発足記念特集。
特集「ステレオタイプを超えてゆけ」の最後は、読者が経験した職場や家庭に潜むステレオタイプについて、『ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた ―あなたがあなたらしくいられるための29問』(明石書店)を監修した、一橋大学大学院社会学研究科教授の佐藤文香さんに話を聞いた。私たちにできるのは、やみくもに戦うというより、ジェンダーギャップが生まれた背景をふまえて対応策を練ること。前編では「飲み会での立ち居振る舞い」や「育児休業中のワンオペ育児・家事」など、社会や家庭で「過剰な女性らしさ」を求められたとき、どのように考え、行動すればいいのかを考えていく。

前編 職場で女子力、家庭でワンオペ育児…どう対処する? ←今回はここ
後編 「女性には大変だから」一見思いやりでも差別 賢い戦い方

「気配り上手=女子力」という風潮に疑問

 最初に話を伺ったのは、外資系企業で正社員として働く伊藤美香子さん(仮名・31歳)。勤務先の米国系の企業はジェンダーギャップがほとんどなく、働きやすいと語る一方で、気遣い不要とされる社風に不安を覚えたという。伊藤さん自身が抱いていた女性としての「ステレオタイプ」はどのようなものだったのだろうか。

読者のステレオタイプを感じた体験 CASE1
伊藤美香子さん(仮名・31歳・外資系企業勤務)

 新卒で外資系企業に入社しました。女性社員も多く、女性リーダー、女性役員も活躍しているのでジェンダーギャップはほとんど感じません。新人歓迎会の席では、男性の上司に「お酌や料理の取り分けは不要」と言われ、社内で移動する際には、女性の上司から「エレベーターのボタンは男性が押すものだからいいのよ」と言われました。意外でしたが受け入れやすかったです。

 大学時代のサークルでは、一部の男子が女子の容姿をランク付けしたり、「料理の取り分けができる女子はいい子」と言ったりしていたのを見て、不快な気持ちになったことがあるので……。

 ただ、日本企業に就職した友達からは、飲み会でのお酌や料理の取り分け、来客へのお茶出しなどは女性がやるのが当たり前だと聞き、「私は日本の社会人としてのマナーを分かっていないのかも。このままでいいのかな?」とすごく焦ったし、不安になりました。

 私自身は、性別で役割を決められることに抵抗はありますが、気遣いができる人になりたいとは思います。でも、職場では気遣いは「不要」とされているし、飲み会などで気配りのつもりでやったことを「こびている」と思われるのも嫌。
「気配り=女子力」とステレオタイプされている風潮に疑問を感じています。

 なぜ気配りできることが「女子力」といわれるのだろうか。また、社会のさまざまな場面で、女性がこうした「女子力」を求められるのはなぜなのだろうか。

 前編では、職場や家庭で求められる「過剰な女性らしさ」について、読者の経験をもとに考えていく。

職場や食事会で「気配り」を求められたことがある人も少なくないはず
職場や食事会で「気配り」を求められたことがある人も少なくないはず
後半では「育休」を理由に、母親のワンオペ育児になってしまうケースを考える
後半では「育休」を理由に、母親のワンオペ育児になってしまうケースを考える