「自分でうまくなれ」

 「もちろんサッカーにおいてプレーに関するチーム内の約束事はありますので、そうした監督として伝えるべきことは伝えます。でも、それ以外の『自分が何をしたいか』というものは個性であって、選手一人ひとり違うはず。それを表現したり、切り開いたりするのは選手です。誰かが切り開いてくれるわけじゃない。だから私はいつも若い選手には『自分でうまくなれ』と言っています」

 「自分でうまくなれ」とは、厳しい言葉にも聞こえる。「そんなに難しいことじゃない。学ぼうと思えば何からでも学べますよ。例えば、サッカーをうまくなるために、サッカーからはもちろん、例えば歴史書からだって学べます」

 高倉さんはプレーに関して、「ああしろ、こうしろ」とはあまり言ったことがない。「戦い方の大枠を決めることはあっても、グラウンドでプレーするのは選手なので、『あとは(自分たちで)やってみな』という感じ。私がそうした姿勢でいても、考える習慣があまりない選手は、答えを欲しがりますが、『そこは自分で考えるべきじゃない?』って返します。それでもやはりどうすればいいか分からない選手には、『これは私の考えだから』だと前置きしたうえで、自分の引き出しから何かを提案することもあります」

 とはいえ、若い時から全部自分で考えて決められる人は、なかなかいないのでは?

最初は誰かの真似でもいい

 初めから自分で考えるのが難しい場合は、どうすればいいのだろう。

 「最初は誰かの真似でもいい。『この人の考え方っていいな』とか、『この人だったらどう考えるかな』って。人生は選択の連続だから。例えば、『今日のお昼は何を食べよう』という小さなものから、『この仕事はどうやって取り組もう』という大きいものまで、本当に選択すべき場面ばかりです」

 一度決めた後に、「やはりこっちのほうがいいかも」とぶれてもいい。「正直、皆、『これでよかったのかな』と悩みながら生きているものなんですよ。でも、自分でじっくり考えた結果であれば、誰かに何か突っ込まれても『こういう理由でこの選択をした』と話せるはず。そんなときにちゃんと説明できなければ自分の考えが足りなかったというだけ」

 「決めることは大事。でも、素直さ・柔軟さも大事」とも言う。「素直な選手ってやっぱり伸びる。これは間違いない。人の話を聞けるというのは大事な能力。人の話を聞いた後の取捨選択は自分ですればいいんです。一旦聞いて『あ、そうか』と腑に落ちる場合は聞き入れればいいし、腑に落ちなければ『そうか、そういう考えもあるんだな』と思えばいいだけの話です」

 「人は成長します。経験を重ねながら成長する人もいれば、あるタイミングで驚くほど力が伸びる人もいます。とにかく諦めずに自分で考え続けることが大事です」