逃げるように転職するのはダメ

 自分軸を探す過程で、転職を考えることもあるかもしれない。そんな若手に対する厳しめのアドバイスも送ってくれた。

 「向上心ややりたいことがあってのキャリアチェンジはいいと思います。でも、やりたい仕事ができないから、上司や先輩が苦手だからという理由で、逃げるように転職をするのはダメ。逃げて転職すれば、また転職先で同じように逃げることを繰り返してしまう。でも、ある場所で勝負できない人は、どこに行ったって勝負できないと思います」

 「確かに苦手な上司もいがいたり、仕事の内容が思っていたものと違ったりすることもあると思います。でも結局、自分がどう生きたいかということが大事。たとえ今やっている仕事が多少つまらなくても、自分が生きるために働くわけで、ある程度の覚悟は必要です。そのうえで、どう楽しくするか、どううまくやっていくかを考えないと」

 「自分で考える」ということは自分一人で行うものとは限らない。「サッカーも多くの仕事も同じ、チームプレーです。仕事で出会う人たちとどんどん話をすればいいと思います。皆が尊重し合って意見を言い合えるというのはとてもいいこと。私は練習や試合の後、選手同士が自発的に話し合いを始めたら、コーチと一緒にできるだけ早くその場を去って選手たちに話し合いを任せることにしています」

 プロサッカーという実力勝負の競争の場で磨かれた、高倉さん流「自分軸の探し方」、ぜひ試してみてほしい。

高倉麻子
サッカー日本女子代表監督
高倉麻子 福島県生まれ。中学生の時、日本初の女子サッカークラブ、FCジンナン(東京)に入団し、高校卒業までの6年間、週末に福島から片道3時間強の道のりを通った。1985年に読売サッカークラブ女子ベレーザ(現日テレ・ベレーザ)に入団。その後、選手として2度のワールドカップと、アトランタオリンピックに出場。2016年から現職。

取材・文/小田舞子(日経doors編集部) 写真/鈴木愛子